この内容は、『めざせジムリーダー』の第2章~2~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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目次

【第2章】感情が見えるスマホアプリ~2~

12・だるま落とし

『だるま落とし』という迷惑行為が、世界中のポケモンGOトレーナーを困らせていた。

 

アップデートのおかげで名声が上げやすくなったとはいえ、7レベル以上のジムを建設するには大量の名声が必要となるため、時間がかかる。

 

それを短縮させる方法が『だるま落とし』というテクニックだった。

 

『だるま落とし』を誘発させる背景には、名声を上げたタイミングを見計らって他のユーザーが横入りするという問題もあるようだが、『だるま落とし』はそれ以上に卑劣な行為だった。

 

『だるま落とし』とは、味方を蹴落として自分のアカウントをジムの中に潜り込ませる方法だからだ。

 

ジムの最大レベルは10。この状態で一度だけ攻撃を加えると、すぐに9レベルに下がる。

 

つまり、あと一人が入れる状態となるのだ。

 

文字通り、『だるま落とし』のように一番下の味方を蹴落とし、何食わぬ顔で入ることができる。

 

ここで問題なのは、このテクニックを行うためには、アカウントを二つ用意する必要があることだ。

 

つまり、味方のジムは攻撃できないため、別のチームのアカウントを作成するわけである。

 

これを裏切り行為以外のなんと呼べるだろうか。

 

この『だるま落とし』をまっとうな方法で対策する場合、CPの高いポケモンをジムに配置して、ジムの一番下にならないようにするしかない。

 

だが、CPの高いポケモンの数には限度がある。

 

一日、百ポケコインを稼ぐためには、十個のジムを所持しておく必要があるが、そのためにはCP3000のポケモンを十匹揃えなければならない。

 

しかし、実際はバトル要員のポケモンも必要になるため、CP2000~2500前後のポケモンをジムに配置しなければならないのだ。

 

このジムを『だるま落とし』で狙われたら、もう終わりである。

 

聡もまた、味方であるはずの青チームに『だるま落とし』で何度も裏切られた。常磐町の四天王ジムは、ドラゴンアッシュとヴィーナスのおかげで青の聖地となっていたため、『だるま落とし』のねらい目となっていたのだ。

 

カイリューを配置すれば何の問題もないのだが、誰もが『だるま落とし』を危惧してジムの上を目指そうとするため、一部のジムでは奇妙な現象が起こっていた。

 

そのモデルケースであるワタルジムは、下から上までカイリューがびっしりと入っていた。

 

こうなると、トレーナーレベルと『ほしのすな』の差が物をいう。

 

聡も一匹だけいるカイリューをワタルジムに食い込ませていたが、すでに順位は下がり続け、現在は三段目にいた。

 

「あと二回強化できるんだが、ミニリュウのアメが足りないんだよなぁ」

 

不安げにワタルジムを確認していた時、バチバチし始めた。『弱いカイリューはいらない』とばかりに、一番下のカイリューが弾き出される。攻撃は、たった一回で収まった。

 

聡は、『だるま落とし』を行った者は誰かを確認するため、ワタルジムを監視し続けた。五分が経過し……十分が過ぎた。

 

「あれ?」

 

誰も入ってこない。9レベルのまま、ワタルジムは佇んでいる。アカウントを切り替えるなら、一分もかからないはずだ。

 

おかしいと思ってみていると、十五分後にしてようやくバチバチし始めた。名声を上げて入ってきたのは、いつもの常連だった。聡のちょうど上の段に入ったため、聡の順位は下から二番目になってしまった。

 

「んー。この人はあちこちのジム壊してる人だから、ちょっと違う気がするな」

 

さきほどの攻撃は、時間がなくて途中で止めたのだろう……聡は、そんな風に思っていた。

 

バチバチ……。

 

程なくして、再びワタルジムが攻撃された。また戻ってきたのかと、聡は監視を続けた。

 

だが、9レベルに下げるだけで、またしてもポケモンが突っ込まれることはなかった。

 

「こいつの目的が分からん……」

 

弱いカイリューだけを弾き飛ばし、強いカイリューだけが存在する塔でも作りたいのだろうか。

 

二十分後、バチバチと火花が散り、10レベルジムに戻った。入ってきたのは、またしても常連だった。

 

その人が入ったことにより、ついに聡はワタルジムの一番下になってしまった。

 

この瞬間、聡はハッと気づいた。この奇妙な行動には、真の目的が隠されていたのだ。

 

「更地マンの奴、オレのアカウントを降ろすのが目的だったのか……」

 

聡をつけ狙う更地マンが行った『だるま落とし』は、世界で唯一合法な方法であり、そしてもっとも卑劣な戦術だった。

 

嫌がらせを目的とした『だるま落とし』は、別アカウントを作る必要はない。ただ、辛抱強く目標のアカウントが落ちるのを待ち、弾き出せばいいだけだ。

 

この行為を公式が咎めることは難しい。はたから見れば、相手チームが攻撃を加えただけなのだ。

 

そしてついに、更地マンは念願の聡を蹴落とすことに成功した。カイリューを強化できない聡は、どう足掻いてもワタルジムで生き残る術はなかった。

 

だが、このままでは終われない。重い足どりでワタルジムに向かうと、戻ってきたカイリューをそのまま配置した。その後、街路樹に背を預け、時間が進むのを待った。ちらつく雪が肩を白く染めていく。

 

しばらくすると、停車するブレーキ音が聞こえた。聡は片目だけで伺うと、見たことのあるセダンの車だった。乗っていたのは、真冬にも関わらずサングラスをかけた中年男性だった。タバコを片手に、スマホをいじっている。

 

あの顔には見覚えがあった。

 

「貴様だったのか、シルバー」

 

十一月頃は毎日のように四天王ジムを狙っていたシルバーだったが、最近は姿を見せなかった。だが、実際はアカウントを見せていなかっただけで、更地マンとして攻撃し続けていたのだ。

 

実は、シルバーがカンナジムのベンチに腰かけて、ポケモンGOをプレイしていたのを見たことがあった。そのため、車で移動している更地マンと同一人物だったとは、今まで考えてこなかった。

 

だが、よくよく考えれば要注意人物だったのだ。黄色チームは人数が少ないので、どんなに壊しても味方の援護が来ることはなく、相手チームに壊されてしまいがちだ。それは、四天王ジムでも同じことだった。

 

ならば、全部壊さずに目標のアカウントだけを弾き出そうと考えるのは、ある意味、自然だったのかもしれない。

 

一番下にいたカイリューを簡単に弾くと、シルバーは車で走り去っていった。

 

「はあ。サカキの息子だって、ここまでのことはしないぞ……」

 

今の聡に、シルバーの『だるま落とし』を攻略する術はなかった。

 

だが、このままでは癪に障る。サトシは色々と考えた末、CP10のコイキングを配置することにした。

 

そのコイキングは、自宅に帰るまでに戻ってきた。

 

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13・ポケモントレーナーの戦い方

アッシュ@キミにきめた

『更地マンに恨みを買った理由が分からん。ルールに乗っ取ってスマホゲームをプレイしただけなんだがw

 

※※※@※※

『更地マンはウザい、BANしていいレベル』

※※※@※※

『地方の黄色は冷遇なんだから許してやれよ』

※※※@※※

『モラルの話なんだよなあ』

※※※@※※

>>1

『シンプルにザマァァァwwwwwwwwww』

プロフェッサーオーク@ポケモン川柳

>>1

『ポケモントレーナーなら、ポケモントレーナーの戦い方で決着をつけろ』

 

 

最初、その言葉の意味が分からなかった。

 

聡は椅子に座りながら考え込んだが、おのずと答えが見えてきた。

 

「ああ、そうか。この人、オレに更地マンと同じことはするなって言いたいのかな?」

 

確かに、それでは不毛な戦いが続くだけだ。ポケモントレーナーとしての格の違いを見せなければ、相手は同じことを繰り返すだろう。

 

では、ポケモンGOにおけるポケモントレーナーの差は一体なんだろうか?

 

そう考えたとき、一つの答えが思い浮かんだ。

 

「やっぱこれしかないよな……。まあいいか、動画のネタにはなりそうだ」

 

*

 

それから数ヵ月の間、ただひたすらにポケモンを捕まえ続けた。バレンタインデーのイベントでアメが二倍になればレアポケモンを集め、水タイプ祭りイベントではコイキングを大量にゲットし、期間中にギャラドスを三匹作り上げた。

 

そして、アドベンチャーウィークのイベントが過ぎ去る頃には、36レベルにまでトレーナーレベルを上げていた。

 

これこそ、聡が考えたポケモントレーナーとしての戦い方だった。シルバーの『だるま落とし』に対抗するのなら、高CPのポケモンをジムのてっぺんに乗せればいいだけの話だ。

 

そして、この急成長ぶりはジム内での順位を大きく変えた。

 

すでに40レベルのヴィーナスを除けば、聡のトレーナーレベルに勝てる者はいなくなっていた。

 

カイリューやバンギラスを四天王ジムに配置すれば、簡単にサブリーダーには到達することができた。

 

そして、カイリュー五匹持ちのヴィーナスといえど、他のジムにも配置しなければならないため、四天王ジムをギャラドスで妥協することもあった。その時には、ヴィーナスの上にポケモンを配置することもできた。

 

久しぶりに、カンナジムの頂に自分のポケモンがいるのを確認すると、聡は高笑いをした。

 

「聡ちゃん、魔王みたくなってるわよ」

 

ドアの隙間から部屋を覗いていた母を厳しく咎めて追い出したあと、聡は四天王ジムに異常がないかチェックした。

 

すると、キクコジムがバチバチしていた。下にいた名もなきシャワーズが抜かれ、再び静寂が戻る。

 

しばらくしてから確認すると、キクコジムは10レベルに戻っていた。中にいるドラゴンアッシュの順位に変動はなかった。

 

「ふん、シルバーよ。オレの勝ちだ」

 

後から入ってくるトレーナーが聡よりも高CPのポケモンを入れなければ、この『だるま落とし』は成立しない。自分のアカウントを入れない『だるま落とし』の最大の弱点といえるだろう。

 

それでなくても、このジムシステムでは、高レベルのトレーナーしか遊ぶことができなくなっていた。そのため、『だるま落とし』によって簡単に入ることができる9レベルジムは、低レベルトレーナーの救済にもなり得るのだ。たとえ一番下でも、貴重な十ポケコインをゲットできるからだ。

 

そのため、聡より高CPのポケモンを入れるトレーナーは、ほとんど現れることはなかった。

 

再び、キクコジムがバチバチしている。

 

「何度やっても無駄だ。オレのポケモンよりもCPの高い奴を入れられる青ユーザーは、この常磐町では限られている。やるなら、仕事終わりで自由に動ける二十一時あたりに仕掛けるんだな」

 

聡は鼻で笑った。だが、すぐに目が釘付けになる。火花は収まることを知らず、名声がどんどん減らされていく。

 

そして、最後には更地となってしまった。

 

「……ほう、更地マンの専売特許というわけか!面白い!」

 

聡は階段を駆け下りると、まっすぐ外へと飛び出した。

 

スマホアプリの中で起こっている更地の話なのに、その横顔はあたかも災害に遭った街に救援しにいくレスキュー隊員のような面構えだった。

 

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