この内容は、『めざせジムリーダー』の第2章~3~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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目次

【第2章】感情が見えるスマホアプリ~3~

14・夢の途中

夕食どき、聡は父と顔を合わせるのが辛かった。

 

もともと無口な人だったが、最近は仕事についてもしつこく聞かれなくなった。それが余計に胸の中で突っかかるのだ。

 

先月、ようやくユーチューブで一万円を稼ぐことができた。自分でも「良くやった」と褒めてあげたい成長ぶりだった。

 

しかし、それをインターネットビジネスの事情を知らない父に話しても、理解してもらえるわけがない。

 

少なくても二十万は稼ぐようにならなければ、頭の固い父を説き伏せることは難しいだろう。

 

「新しいジムはどんな風になるの?」

 

沈黙を破ったのは、母の弾んだ声だった。聡はチラッと顔を見てから、口を開いた。

 

「詳しくはやってみないと分からないけど、名声を上げなくても六匹まで入れられるらしいよ」

「あらそう。なら、母さんもたくさん乗せることができるのかしら?」

 

名声を上げるのが下手くそだった母にとっても、更地マンにつけ狙われる聡にとっても、このジムの仕様変更は歓迎すべきものだった。

 

新しいジムでは、ポケモンがジムに滞在した時間に応じてポケコインを入手することができる。つまり、壊してくれたほうがありがたいのだ。

 

「オレはそれよりも、レイドバトルをやってみたいな」

 

聡の言葉に、母は「え、何それ?お父さん、分かる?」と尋ねた。質問する相手を完全に間違っている。

 

「……あれだ、みんなで集まってやるヤツだろ」

 

聡は、味噌汁の具を取りそこなった。父の説明は抽象的ではあるが、間違ってはいない。

 

「あら、お父さん。詳しいのね」

「別に。スマホのニュースに出てただけだ」

 

父は空いた食器を台所に置くと、そのまま寝室へと消えた。母は、そんな様子をニコニコしながら見ていた。

 

「なんだかんだ言って、聡ちゃんのことが心配なのよ」

「まあ、理解されづらい仕事だからな」

「今だけじゃなくて、ずっと前からよ。お父さん、心配性なんだから」

 

母はそういうと席を立った。聡は頭をかいた後、ご飯を素早く平らげた。

 

やるべき仕事は、まだ残っている。

 

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15・カツラジムを攻略せよ!

双葉市にある双葉駅を中央エリアとするならば、常盤町は西エリアに位置する。

 

西エリアのジムは、中央エリアと比べてまばらにあり、町内に二つあれば良しというレベルだった。

 

その中で、ジムが密集している町内がある。

 

常磐町、石英せきえい町、桂木かつらぎ町だ。

 

これらの町はすべて横並びにあり、真ん中に石英町がある。

 

聡が住む常盤町の四つのジムは、ドラゴンアッシュとヴィーナスのおかげで青の聖地となっていた。

 

反対に、桂木町の三つのジムは赤の聖地となっている。

 

そのため、その中心にある石英町の四つのジムは激戦区となっていた。赤チームからすれば、桂木町のジムが3つしかないため、石英町を手中に収めたいわけだ。

 

だが、それは青チームも同じことである。石英町が落とされると、ポケコインの取り分が少なくなるため、意地でも引くわけにはいかない。

 

それでなくても、西エリアのジムは少ないのだ。この理由こそ、石英町の陣地取りを激化させていたのである。

 

そんな両者の攻防に、黄色チームは横やりを入れる。石英町のジムが10レベルになることは滅多にないため、壊しやすいからだ。

 

しかし、そんな陣地取りゲームも終わりを迎えようとしていた。十日後にはジムの機能が停止し、新たなジムへと生まれ変わる。

 

このジムシステムで遊ぶ時間は、もう残り少なかった。

 

「更地に遭うオレにとっては嬉しいことだが、そう考えると寂しいものだな」

 

石英町のスーパーで買い物をしていた聡は、スマホを見ながらそんなことを思っていた。買い物帰りの主婦層が強いのか、昼間でもバチバチと戦いを繰り広げている。ここにはドラックストアやホームセンターも立ち並んでいるので、西エリアの繁華街となっていた。

 

この町からでも、桂木町のジムの一つがうっすらと見えた。赤くそびえ立つ10レベルジムを見ると、体の奥にあるものが沸々と煮えたぎる。

 

「最後に、カツラジムのパワーバランスでも崩してやるか」

 

聡は不敵な笑みを浮かべると、準備のために常磐町へと戻った。

 

*

 

トレーナーレベルやバトルポケモンによって個人差はあるが、10レベルジムを一人で壊すためには、少なくても二十五分はかかる。

 

三つあるカツラジムを壊すのに一時間半ぐらいは必要だったが、聡は朝と夜の二回に分けて攻撃し続けた。

 

ハピナスを置いて去るわけだが、やはり赤の聖地になっているだけあり、三十分以内には戻ってきた。その後、一時間で7レベル、二時間後には10レベルジムに再生していた。

 

そのジムを見ていると、「ここは絶対に落とさせない!」という赤チームの声が聞こえてくるようだった。

 

聡は、その一部始終を監視し続け、自分の障壁となる猛者を特定していた。

 

いつも最初に壊すのは、35レベルの大統領(daitouryou)だ。大統領は昼間も動けるらしく、かなりの頻度で巡回している。

 

ただ、もっとも厄介なのは38レベルのイーグルアイ(eagle-eye)だ。イーグルアイが活発に動くのは夜だが、ハピナスをジムの中に配置して去る。しかも、どのポケモンのCPを確認してもMAXだった。

 

「やはり、この二人がカツラジム攻略の障害となるか……面白い!」

 

36レベルの聡は、この状況を楽しんでいた。カツラジムの攻略中にも、常磐町ではシルバーによる更地が続いている。体力的に、正直しんどい。

 

だが、このジムバトルはもう二度と味わうことのできない戦いとなる。そう思うと、モバイルバッテリーを懐に忍ばせて、決戦の舞台へと足を運んでしまうのだ。

 

はたから見れば無謀な攻略に見えるが、聡には勝算があった。この攻撃を繰り返すことで、状況に変化が生じることを信じていた。

 

それは、七日目に起こった。

 

いつも通り、二十一時頃にカツラジムを壊すと、聡を待ち構えていたかのように大統領が壊していく。「今日もダメだったか……」と去ろうとしたとき、カツラジムに変化が生じた。

 

バチバチ……。

 

大統領のギャラドスが弾かれた。そこに入ってきたのはヴィーナスだった。

 

それだけではない。四天王ジムにいつも入れてくれる33レベルのファング(fang)、アカウント二台持ちの30レベルのロビンソン(robinson)なども続々と入れていった。

 

聡が狙っていたのは、この流れだった。青チームは石英町までやってくるが、桂木町は赤の聖地だからと諦めて去ってしまう。しかし、石英町からはカツラジムが見えるため、壊れていれば応援に駆けつけてくれると考えたのだ。

 

アカウントを抜かれた聡も、現地に戻ってポケモンを乗せ直したことで、カツラジムのすべてを青の5レベルにすることができた。大統領がすぐに戻ってくると思ったが、聡との連戦で回復アイテムを消耗しているのか、現れることはなかった。

 

「やったぜ!カツラジム攻略成功!」

 

聡がスクショで、この光景を収めた時だった。

 

バチバチ……。

 

一つのジムが溶けるように崩れていく。ジムに乗ったのは、高CPのハピナスだった。

 

「イーグルアイぃぃぃ!あんたはオレが落とすっ!」

 

その夜、コンビニの光もない静かな町内で、竜と鷲は激しくぶつかり合っていた。

 

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