この内容は、『めざせジムリーダー』の第1章~3~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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【第1章】30代無職、ポケモントレーナーになる~3~

6・7月22日

それは、日本人が待ちに待った日だった。

 

欧米ではすでに配信されているにも関わらず、日本だけは『サーバーの安定化』を理由に先延ばしにされていた。

 

テレビの報道番組でも『今週には』と言い続け、結局また週が始まり、そして金曜日となった。

 

この日がダメなら、また来週まで延期されると思われていた時、ついにポケモンGOの配信が開始した。

 

ユーチューバーとは名ばかりの実質ニートの聡は、このタイミングを逃すことはなかった。

 

アカウント名は、すでに決まっていた。英語版のサトシを意味する『アッシュ(ash)』だ。

 

だが、この選択は誤りだったことに気づかされる。

 

「ダ、ダメだ……全部使われる」

 

聡はあらゆる数字の組み合わせを試したが、何一つヒットすることはなかった。

 

同然だ。ポケモンファンが日本の数十倍いる欧米で先に配信されているということは、アカウント名も同じ数だけすでに設定されている。そのアカウント名に、アニメの主人公の名前を使わないはずがない。

 

ダメもとで『ケッチャム』も入れて見たが、まるで手ごたえがなかった。

 

時間ばかりが過ぎていく。早く冒険に出たい聡は、それほど熱心に聞いてはいなかったが『ドラゴンアッシュ(Dragon-ash)』というアカウント名にした。単語の間に数字を混ぜると、案外簡単に設定が完了した。

 

「ドラゴン使いのワタル感はあるが……ま、これはこれで格好良いか」

 

聡はポケモンGOの冒頭を進めると、ウィロー博士から最初のパートナーポケモンを捕まえるように指示された。当然、捕まえるのは赤で最初に選んだヒトカゲだ。

 

ようやくプロローグが終わり、ドラゴンアッシュを自由に動かすことができる。ポケモンGOはグーグルMAPと連動しており、画面には見慣れた町が表示されていた。

 

「おおっ!なんだ、このワクワク感は!」

 

地図上には、あちこちにジムやポケストップが表示されており、聡をまだ見ぬ冒険に駆り立てるように待ち構えていた。

 

自然と足が、冒険の舞台がある外へと進んでいた。

 

玄関のドアを開けると、照り返す太陽に目を細めた。始まったばかりの夏は、アスファルトに陽炎を見せていた。

 

その時、手元のスマホが振動した。そこには、野生のポケモンが姿を現していた。

 

「ポッポ、キター!」

 

聡は自宅のドアを半開きにしたまま、人差し指に思いを乗せてスワイプした。

 

モンスターボールはブレることなく真っすぐに飛び、ポッポの頭に当たった。3DSで見慣れた演出で、ポッポがボールの中へと吸い込まれていく。

 

コロッ……コロッ……コロッ……カチッ!

 

「ポッポ、ゲットだぜ!」

 

ガッツポーズを決めた聡は、ようやく目の前に両親がいることに気づいた。買い物から戻ってきた二人は、呆然とした表情で息子を見ていた。

 

「ついにおかしくなったか? さっさとハローワークへ行け」

 

父の言葉のせいで、せっかくの世界観がぶち壊しである。そのまま自宅の中へと消えたが、今度は母に「嘘っ配信されたの?」と迫られてしまい、ダウンロードを手伝うために自宅へ戻されることになった。

 

しかし、この時すでに日本中からのアクセスが集中したため、しばらくダウンロードはできなかった。

 

聡の冒険は、15時過ぎのスタートとなってしまった。

 

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7・町内にポケモントレーナーが溢れる

聡が住む双葉ふたば市の人口は、東京の1/60だ。

 

そして、実家がある常盤ときわ町内は、駅がある中心部から外れた閑静な住宅地である。

 

聞こえてくる騒音といえば、ゴミ収集車のアナウンスか子供の甲高い笑い声だけだ。

 

しかし、金曜日の夜からおかしなことになっていた。

 

タクシードライバーがトイレにしか立ち寄らないような公園のポケストップを訪れると、数人の学生たちがスマホを見せ合いながらケラケラと笑っていた。

 

次の公園に立ち寄れば、今度は子連れの母親が「これは何?ネズミなの?」と捕まえたポケモンを子供に見せていた。

 

そして現在、土曜日の昼下がり。聡の自宅の近くにある公園は、お祭りでも行われているのかと錯覚するぐらいの人だかりができていた。

 

スマホを確認すると、ポケストップには桜が舞っていた。この状態だと、いつもよりポケモンが多く集まってくる。だが、実際は人のほうが集まるようだ。

 

「聡ちゃん、ビートルズが出てるわよ」

「ビードルね」

「これ、仮面ライダーだわっ」

「それはコンパン」

 

母は、聡の話をまるで聞いていない。コンパン相手に、モンスターボールを七つも放り投げているが、まったく当たる気配がない。

 

いつしか桜が散ると、人だかりは次の公園へと流れていった。

 

町内の変わりようを見ると、ポケモンブランドの影響力を今更ながらに実感した。

 

とはいえ、これは想像できた話だ。世界中があれほど熱狂していると報道されたのなら、ミーハーな人々も試しにプレイしたくなる。

 

ここがポケモンの誕生した国なら、なおさらだろう。

 

この現象は、東京のお台場海浜公園や錦糸公園だけの話ではなく、すべての市町村で起こっている大ブームなのだ。

 

もっとも、ポケストップすら表示されない過疎地もあることを後から知ったのだが、童心に返っている聡には、そんな気は回らなかった。

 

「おっしゃ!イーブイだ!」

 

桜が散った公園に、イーブイがひょっこり顔を出した。ポケモンが捕まえられずに苦戦している母を待っていたことが報われた瞬間だった。

 

すぐにモンスターボールを投げるが、なかなか捕まらなかった。入ったと思ったら、ボールから飛び出してしまう。

 

「ヤバい、緊張してきた」

 

一呼吸置いてから、聡は指を弾いた。全力で投げたボールはNiceの判定となり、ついにイーブイをゲットすることができた。

 

「よし、イーブイゲットだぜ!」

「え、その子ならさっき一回で捕まえたわよ」

「はっ?」

 

母は、さも当然のようにイーブイが表示されたスマホを見せてきた。知らぬ間に、母もポケモントレーナーになっていた……。

 

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