この内容は、『めざせジムリーダー』の第4章~1~です。
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目次
【第4章】理想と現実の狭間で~1~
22・離反
スイクンレイドの募集がかかり、聡は急いで玄関に向かった。始まるまで時間があまりなかった。
「仕事は順調なのか?」
こんな時に限って、そんな父の言葉に呼び止められた。いつもと違い、冷静な物言いだった。
聡は鬱陶しそうに「月五万は稼げるようになったよ」と説明した。
「それで生活できると思っているわけじゃないだろうな」
「分かってるよ。でも、五万まできたんだ。もう少しで結果が出る」
「いつまでも家と親があると思うな。最後は、お前ひとりで生きていかなきゃならないんだ。ゲームの世界とは違うんだ」
「……分かってるよ!」
聡は、一度も父の顔を見ずに外へ出た。その態度に、どんな表情を浮かべていたかは知らない。きっと、いつものように呆れているのだろう。
九月の空はどんよりと曇っており、少し肌寒かった。ジャケットを取りに戻りたいところだが、そんな気にはなれなかった。
石英町のジムまでぶるぶる震えながら向かうと、そこにはファング夫妻、ロビンソン、大統領、ヴィーナスの姿があった。
「お待たせしましたっ」
聡の返事に、みんなは挨拶してくれた。ただ、いつもより声に元気がなかった。
何かあったのかと尋ねると、ファングは重々しく口を開いた。
「実は、『絆』内でトラブルがありましてね。といっても、牛尾なんですが」
「何かやらかしたんですか?」
「ええ、まあ……」
その話は、とても些細なことだった。赤チームの牛尾は、レイドが始まる前にそのジムを壊して赤色にする。これを行うことで、レイドバトルのゲットチャンスで使えるボールが二個増える。ポケモンGOでは、日常茶飯事のテクニックだ。
ただ、問題はここからだ。目標のジムを壊したところで、そこに人が集まるかどうかは分からない。都会なら考えられない話だが、地方ではよくある話だ。なので、無暗やたらと壊しても疲れるだけである。
つまり、牛尾は『絆』で募集がかかったジムを狙って壊しているというわけだ。そのため、『絆』に参加している青チームの人で、それが面白くないと感じている人がいるようだった。
その話を聞いて、聡は『牛尾は悪くないな……』と思ってしまった。当然だ。それを言ってしまったら、初日から赤のジムを壊し続けている聡は大犯罪者である。
たぶん、これは人柄の問題なのだろう。実は、会長もよくレイドが始まる前にジムを壊す。しかし、みんなから言われることは「もう、会長またですか~」という一言だけだ。黄色チームの陣地でレイドバトルが行える機会が少ないから、情けで許されるという理由もあるだろうが、会長の人柄で許されていることは明白だった。
だが、牛尾は違う。もともと態度が悪いため、年上からみれば生意気な若者なのだ。それが今回、あだとなったのだろう。
「まあ、牛尾が100%悪いわけじゃないんで、後でオレから話はつけておきます」
牛尾の態度が気に入らなかったファングも、これに関しては同意見だったようだ。まとめ役として、速やかに解決することを約束してくれた。
帰り道、聡は少し残念に思っていた。人が集まれば喜びも生まれるが、こうしてトラブルも起こってしまう。久しぶりの団体行動で、そのことに気づかされた。
「まあ、伝説が手に入らなくなるのは嫌だから、こればっかりは我慢するしかないか」
それに、この問題はすぐに収まるようなトラブルだ。また、元通りレイドバトルができる……。聡は、そう思っていた。
だが、話はそんな簡単なものではなかった。
その夜。牛尾を含む赤チームの四人が『絆』から退出した……。
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23・青のLINEグループ
状況は、たった一日で目まぐるしく変化していた。
いや、人の感情が大きく変化していたというべきだろうか。
聡は呼び出されたジムに向かうと、ファングとロビンソンが待っていた。
初めてみるが、ファングは全身の毛を逆立てるように怒っていた。まるで狂犬のようだった。
話は昨日、聡が別れたあとまで巻き戻る。ロビンソンがファングたちと別れたあと、たまたま近くの公園でレイドバトルの人だかりを見つけたので、参加することにしたそうだ。
そこには牛尾の姿もあった。なので、「まだやってないッスか?」と問いかけると、牛尾は「すまんのう、終わったんや」と似非関西弁で返事をしたという。
その時、たまたま別グループが公園に入ってきたので、ロビンソンはその人たちとレイドバトルをすることにした。
問題はここからだ。なんと、牛尾がレイドのグループコードを読み上げていたのだ。
つまり、牛尾を含むそのグループは、まだレイドをやっていなかったのに、ロビンソンを入れなかったということだ。
そのグループは全員赤だったので、青であるロビンソンを弾いたのだ。
これを聞いたファングは激怒し、牛尾と電話で話したそうだ。ただ、感情的に話しても関係はこじれるばかりであり、最終的には『絆』の退出という形になったようだ。
牛尾がそのような行動を起こしたのは、おそらく青チームとのいざこざが原因だろう。しかし、それを口にしたのはロビンソンではない。
にも関わらず、『絆』の仲間であるロビンソンをレイドに入れないというのは、あまりにも酷い話だ。聡も、ファングの怒りは理解できた。
「あの野郎っ!昨日の夜から、オレのアカウントが入ったジムだけ攻撃してくるんですよ!」
どうやら、ケンカはジムバトルにまで発展しているようだった。昨日の夜、ファングとロビンソンが一緒に回って、牛尾に取られたジムを取り戻したそうだが、今度は仲間を引き連れて戻ってきたらしい。その仲間というのは、『絆』から退出した他の三人である。
ただ、それ以外にも仲間がいるようで、計六人で行動しているようだった。それは、新ジムの仕組みを考えると厄介な話だ。
ジムに配置できるのは六匹が上限なので、六つのアカウントを同時に動かせるのは何かと都合がいい。例えば、入れる順番を工夫することで、強固なジムを作り上げることも可能だ。そして、金ズリ防衛を徹底して行えるメリットもある。
「ドラゴンさん、オレたちも青のLINEグループを作って牛尾たちを倒しましょう!」
聡は、半ば強制的に青の専用LINE『青龍』に加入するハメとなった。何か変な方向に進んでいる気がしていたが、一度進んだレールからは逃れられないように、話はどんどん大きくなっていった……。
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