この内容は、『めざせジムリーダー』の第4章~2~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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【第4章】理想と現実の狭間で~2~

24・ドラゴン狩り

『青龍』というLINEグループ名は良くなかったと、聡は今になって後悔していた。

 

どう考えても、青チームのドラゴンアッシュのイメージしか思い浮かばない。

 

だが、時すでに遅し。『青龍』という名前がどこから漏れたのかは知らないが、牛尾が率いる赤チームにも認知されていた。

 

そのため、聡も牛尾たちの標的となってしまった。

 

ファングやロビンソンは、空いているジムに滑りこませてポケコインを稼ぐスタイルだが、聡は違う。四天王ジムという、自分の陣地を守り続けるスタイルのトレーナーだ。

 

つまり、聡を倒すのなら、常磐町に来るのが手っ取り早いわけである。

 

「聡ちゃん、またいつもの六人グループがやってきたわっ」

 

母の声よりも先に、聡は外に出る準備をしていた。二十二時は、奴らのゴールデンタイムだ。

 

ただ、攻撃はこの一回だけではない。壊せば壊される……その繰り返しだ。聡は、ジムに関しては絶対に引かないタイプなので、牛尾もムキになって攻撃してくるようだった。

 

そのため、いつしかファングよりも聡のほうが恨まれる形となっていたのだ。

 

「最近まで安定してたってのに、面倒なやつらだ!」

 

昔は大統領やイーグルアイに攻撃されていたが、レイドで仲良くなってからはそれも少なくなっていた。シルバーは時折壊していくが、昔ほどではない。そのため、ゆったりとした生活を送ることができていた。

 

その邪魔となる牛尾たちには、是が非でも出て行ってもらいたいと思うのは、当然の感情だろう。

 

シルバーとは違い、数人で攻撃してくるのも厄介だった。そのほうが早く壊せるし、すぐにジムを固めることができる。

 

最初に壊すのは、いつも40レベルのミルタン(mirutan)だった。ファングの話では、牛尾の彼女らしい。何が腹立たしいかといえば、朝と昼と夜の三回も攻撃してくるのだ。ファングとロビンソンのアカウントも、この女にやられている。そのあとに、牛尾の仲間たちがそれぞれの都合に合わせて攻撃してくるのだ。

 

「ここは青の総本山じゃねえぇぇよ!帰れ暇人ども!!」

 

フル強化のカイリキーでガンガン『やる気』を削っていく。しかし、現在は遠隔操作で『金のズリのみ』をジムに投げ入れられるようになったので、削ったあとからどんどん回復されてしまう。

 

「こいつら、どんだけ課金してるんだ!チクショー!」

 

連日壊し続けているのに、金ズリ防衛をやめようとはしない。夜で使い果たしても、昼間のレイドで荒稼ぎしているらしい。何故そこまでするのか、本当に理解できない。

 

これではまるで、聡が牛尾に文句を言った青チームで、しかも『絆』のLINEから追放した張本人のようではないか。それなら彼女が怒るのも無理はないが、完全に濡れ衣である。

 

一人ではラチがあかないので、すでに『青龍』のLINEに応援の連絡をしていた。だが、今日に限ってみんな用事があるらしく、誰も来れないらしい。責任感の強いファングは、「仕事が終わる一時間は耐えてください!」と言ってくれた。つまり、一時間は一人で頑張るしかない。

 

四天王ジムは四つあるため、全部取り戻すのに今日も一苦労となりそうだった。

 

その時、占拠されていたキクコジムがバチバチし始めた。こんな夜更けに攻撃するのは誰なのか、聡には分からなかった。

 

更地になったあと、ジムが色付いた。それを見て、聡は笑った。まさか、かつての敵であるシルバーに助けられるとは思いもしなかった。

 

その後、シルバーはシバジムも黄色にして去っていった。『あとの二本は自分でなんとかしろ』……そう言っているように見えた。

 

「負けてなるものかあぁぁぁ!!!」

 

聡は金ジム防衛を食い破り、カンナジムとワタルジムを取り戻した。ちょうどその時、ファングが駆けつけてくれて、ジムを強化することができた。

 

「あっちのジムはどうしますか?」

 

ファングは黄色くなっているジムを指差したが、聡は首を振った。

 

「目的は達成しました、今日はこのままでいいです」

 

ポケモンGOをプレイして以来、聡は初めて他チームに四天王ジムの半分を譲ったのだった。

 

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25・解れ

聡は、自分から声をかけてレイドを募集することはない。

 

だが、今日は『絆』のLINEグループで募集してみた。ヴィーナスと大統領だけが反応してくれたが、ファングが返答することはなかった。

 

すると、『絆』ではなく、『青龍』のLINEにメッセージが届いた。

 

 

ファング

『駅前にライコウ出てるので、ドラゴンさんもやりませんか?』

 

 

聡は小さくため息をつくと、『用事があって時間がなく、西エリアで募集しました。なので、今日はそっちまで行けません。すみません』と嘘の返事をした。

 

スイクンレイドが終わる頃には、『青龍』の人数は三十人となり、『絆』の人数を上回っていた。

 

青チームは、駅前などの中央エリアで活動しているトレーナーが多かった。そのため、『青龍』で募集するレイドに西エリアのジムの名前が上がることは少なかった。

 

ファングは、住まいが石英町なので西エリアの人間だ。しかし、そんなことは問題なさそうに、『青龍』のレイドばかりに行っていた。

 

ファングにとって問題があるのは、赤チームとレイドバトルをすることだった。

 

「青だけなら、チーム貢献度でボールも増えるからいいですよね」

 

先週、『青龍』のメンバーとレイドをしたとき、ファングはそんなことを口にしていた。それは、牛尾と同じ考えだった。

 

「分かるんだけど……なんか違うんだよなあ」

 

部屋の窓を開け、遠くに見える芝浦公園を眺めた。

 

聡はいつだって、あの公園の中央にあるシバジムが見えていた。その下で集まって伝説レイドに挑んでいた『絆』のメンバーの姿も……。

 

だが、今は彼らの残像が見えることはなかった。

 

「腹減ったな……」

 

両親揃ってどこかへ行ってしまい、ランチは自分で済ませなければならなかった。

 

常磐町の飲食店は、ゴロンダのような目つきをした大将がいるラーメン屋しかない。一部のユーザーには人気なようだったが、聡には入る勇気すらなかった。

 

仕方がないので、自転車に跨って石英町に向かった。秋風が頬を撫でる。そろそろ、自転車も辛くなってくる季節だった。

 

ようやく、いつも利用しているファミレスにたどり着いた。だが、その足が止まる。窓越しに『青龍』のメンバーが見えた。

 

「たまには、新規開拓でもしてみるかな」

 

その場をあとにし、大通りから外れ、石畳の路地を下がっていく。このあたりは飲み屋街となっているが、ちらほら飲食店も顔を出していた。

 

ほとんどが夜間の営業のみだったが、一つだけやっている大衆食堂があった。人の入りも頻繁だったので、味は信用できそうだった。

 

米利堅アメリカン』と書かれた暖簾をくぐると、自由の女神、セントラルパーク、ゴールデンゲートブリッジといった観光名所のミニチュアが所狭しと並んでいる。にも関わらず、タヌキの置物や鮭を咥えた熊の木彫りが、それらの隣に置かれており、日本と米国の奇妙なハーモニーが店内を彩っていた。

 

「おや?いらっしゃい!ドラゴンさん!」

 

厨房から顔を出したのは、カビゴンみたいな体型の大統領だった。なるほど、ようやくそのアカウント名の由来が理解できた。

 

「大統領さん、料理人だったんですね」

「はっはっは!格好良い言い方をするとそうかな。ここ、意外と外人には知られてる店なんだよ。あ、何にします?」

 

和食から洋食まで幅広く取り揃えており、外国の観光客からの支持が高いという話も頷ける。どれが旨いのか分からないので、とりあえず『今日のランチメニュー』を頼んでみた。まさかのカツ丼が出てきて、笑いが止まらなかった。ただ、とんでもなく旨かった。

 

聡が食べ終わる頃、ちょうど昼休憩に入ったのか、大統領は暖簾を片づけていた。店に入るとコップ一杯の水を入れて、聡の隣に座った。

 

「最近、平日の集まり悪いよなー。さっきもダメだったし」

「……ええ」

「『絆』だけならまだしも、全体のほうも全然だよね」

 

スイクンレイドが終わった頃だろうか。まず、学生層が最初に飽きてしまい、どんどん退出していった。次に、ミーハー層が消えていった。

 

二百人ほどいたレイドバトル専用LINEは、今では百五十人にまで減っていた。ただ、この中でも音信不通なのは半数以上いるのが現状だった。

 

それは、『絆』も同じだった。すでに十人ほどが音信不通になっていた。牛尾たちの四人が抜けたので、積極的に活動しているのは十一人だけだった。

 

「まあ、返事がないだけで、やってないわけじゃないみたいだけどね」

「どういう意味ですか?」

「『絆』みたいなグループがたくさんあるってことさ。僕が知っているだけでも七つに分裂してる」

「そんなにあるんですか。全体で反応がないのも当たり前ですね」

「結局みんな、仲が良い人としかレイドをしなくなる。人間ってそういう生き物だよな」

「なんだか、悲しいですね……」

 

聡がため息をつくと、大統領は鼻で笑った。

 

「ドラゴンさんって、ポケモンだとキャラ変わるよね」

 

聡はむせてしまい、コップの水を吐き出してしまった。

 

「えっ?そ、そうですか?あ、いや……そもそも、オレの性格ってそんな知らないですよね?」

「はっはっは!まあ、そう言われればそうだな。でも、ずっと前から一緒にゲームはしてた。だから分かるよ」

 

旧ジムの頃は、大統領と毎日バチバチやり合っていた。仮想世界の中では、二人はずっと前から知り合いだったのだ。ポケモンGOを通して、相手の人柄が見えるというのは分かる気がした。

 

「ドラゴンさんは、ポケモンには熱い人なんだと感じてたよ。だから、今のファングさんにも思うところがあるんじゃないかな?」

「……そう、ですね」

「そういうのいいと思うよ。僕みたいな完全におっさんになると、社会的なことも考えてしまい、何も言えなくなっちゃう。でも、人の気持ちを動かすことができるのは本心だけなんだよ、きっと」

 

大統領は聡の肩に手を乗せたあと、席を立った。

 

しばらく物思いにふけっていたが、聡は勘定を払って外に出た。すると、大統領が見送りにきてくれた。

 

「ごちそうさまでした。また、レイドやりましょうね」

「うん……でも、前みたいには難しいかもしれない」

「えっ、どうしてですか?」

 

すると、大統領は店内に視線をやった。そこには、大統領の奥さんが赤ん坊を背負いながらテーブルを拭いていた。

 

「この前、怒られちゃってね。『ポケモンGOやっても、お金になるわけじゃないのよ!』って」

「ああ、なるほど……」

「ポケモンGOは楽しいけど、リアルと両立するのは難しいゲームだよな」

「…………」

「ごめんな。ただでさえ、『絆』の集まりが悪いってのに」

 

聡は首を振った。スマホアプリの参加を強制できるわけがない。

 

その時、ふと、父が口にしていたことを思い出した。

 

『いつまでも家と親があると思うな。最後は、お前ひとりで生きていかなきゃならないんだ。ゲームの世界とは違うんだ』

 

心のどこかで、ポケモンGOに理想の世界を求めていたのかもしれない。

 

聡は、現実の壁を意識せずにはいられなかった……。

 

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