この内容は、『めざせジムリーダー』の第5章~4~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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【第5章】ポケモンやってる人に悪い奴はいない~4~

34・殿堂入り

車内は無言だった。一緒に後部座席に座っているポチファングは、尻尾を振りながら聡を見つめている。その頭を撫でてやると、気持ち良さそうな表情をした。犬に触るのは、小学生以来だ。

 

あれは確か、夕暮れどきに散歩をしていた女性の白い飼い犬とすれ違ったときだ。

 

犬が怖いという聡に、父はお手本を見せるように犬の頭を撫でた。気持ち良さそうな様子を見て、聡も恐る恐る真似して撫でてみた。同じ表情を見せてくれて、聡は思わず笑顔になった。そんな様子を見て、父も嬉しそうだった。

 

車が緩やかに止まり、聡は現実に引き戻された。外を覗くと、石英町のジムがある公園ではなかった。だが、どうしてここに止まったのかは見当がついた。

 

「エンテイ……だったんですね」

「……常盤まで送ります」

「いえ、それだと空港の時間に遅れます。ここから歩いていけば、割れる時間には間に合いますから」

 

聡が車から降りると、ファングは窓を開けた。

 

「希望を捨てない人間だけが結果を手にできる……オレは、ずっとそう言い聞かせて生きてきました。ドラゴンさん、希望を捨てないでください。最後まで」

「好きな言葉ですね、ポケモンバトルでも同じことが言えます。降参を押さないトレーナーだけが、急所を引き寄せることができるんです」

「ははっ。ドラゴンさんの宇宙言語が炸裂するなら、心配なさそうですね」

 

聡は夫妻と挨拶をかわし、車が見えなくなるまで手を振った。

 

「急所が出る確率は、二割じゃすまないけどなあ……」

 

聡は苦笑いを浮かべながら、最後の5レベルが出現したワタルジムへと歩き出した。

 

常盤町からホウオウレイドを始め、あちこちと市内を移動し、最後に再び戻る……なんだか、カントー地方のポケモンリーグを目指す気分だった。

 

小学生だった聡にとって、ポケモンリーグは難攻不落の要塞だった。カンナにすら勝つことができず、チャンピオンロードで修行する日々が続いた。

 

次は、回復系の道具をたんまりと用意し、最後の四天王ワタルまで勝ち進むことができた。カイリューの『はかいこうせん』でリザードンがやられたが、フリーザーの『ふぶき』で大逆転できた。

 

「やったー!ゲームクリアだっ!」と思った時、ワタルに『……と いいたい とこだが』と口にされた衝撃は、今でも忘れられない。

 

案の定、ライバルにボコボコにされ、再びポケモンリーグをやり直す結果となった。

 

ホウオウに拒まれ続ける今の状況は、なんだか殿堂入りまでの道のりと重なるものがあった。

 

セキエイ高原を抜けた先にそびえ立つ赤い四天王ジムを見上げれば、そう錯覚しても不思議ではなかった。あとは、ワタルジムのてっぺんでチャンピオンが生まれるのを待つばかりだ。

 

タマゴが割れるまで十分を切ったが、ワタルジムの周辺に人影はない。平日なので、車さえ通らない状況だった。

 

「三台じゃ、さすがに無理だしな……」

 

母のアカウントは37レベルになっていたが、それでも数が厳しすぎる。父のアカウントの弱さを考えると、最低でもあと二台は欲しいところだ。

 

LINEを覗いたが、反応はいまいちだった。来れなくなったロビンソンは責任を感じているのか、文章に誤字が目立った。聡はフォローの言葉を打ち込んで送った。

 

その時、ピロンと音が鳴った。

 

 

『ねえ、どうして今日にこだわってるの?』

 

 

聡のLINEアカウント宛に、茜が返事を送ってきた。隠す必要もなかったので、今の状況を手短に文章にして送りつけた。

 

 

『待ってて。今、向かわせるから』

 

 

既読五秒で返ってきた。急いでいるのか、それっきり返事はなかった。

 

「とりあえず、待ってみるか」

 

聡は、それよりも病院までの距離が気になっていた。ここから車で向かえば二十分だが、自転車で向かうと三十分以上はかかる。十一時二十分スタートのレイドバトルだが、来てもらうなら開始後十分以内が望ましいのだ。

 

すると、閑静な住宅街から車のエンジン音が聞こえてきた。真っすぐワタルジムまでやってくると、聡の前で停まった。降りてきた人物を見て、「あっ!」と声を上げてしまった。

 

「牛尾くん……来てくれたんだ」

「何、驚いてんねん。オレは幽霊かっ」

 

相変わらず、似非関西弁に違和感を覚えたが、その顔をまじまじと見ると、確かに小学生の時に遊んだ同級生の面影があった。

 

「言っとくけどな、オレはお前のためにレイド手伝うわけちゃうぞ!お前のおとんが赤っていうから、力を貸そうと思っただけや」

「で、なんで関西弁なの?」

「ああん?」

「いや、地元ここでしょ?」

「…………」

「……言いたくないなら、別にいいけど」

 

牛尾は照れ臭いのか、やけにもじもじしている。

 

「茜と初めて見にいった映画な……その主人公が……なんや、その……」

「ああ、うん。大丈夫、なんとなく伝わった。意外とピュアなんだね」

「はあ?お前、ケンカ売ってるだろ!」

「おおっ、そういう時は言葉戻るんだね」

 

すっかりペースを乱されてしまったようで、牛尾は頭をでたらめに掻いた。その仕草は、坊主でチビだった頃にそっくりだった。

 

「そんなことは、どうでもええねんっ!お前とオレだけかい?そりゃ、ホウオウ無理やで」

 

牛尾の言う通りだった。牛尾も40レベルに到達していたが、それでも22、37、40、40の四台でホウオウを倒すのは難しい。

 

「でも、時間ないんやろ?とりあえず、割れたら行くで」

「うん、お願い」

 

二人が残り一分を切ったタマゴに視線を落としている時、セダンの車が停まった。窓が下りると、聡は開いた口が塞がらなかった。相手も同じ心境だったのか、気を紛らわすためにタバコに火をつけていた。

 

「なんや、おたくら知り合いかい?」

 

牛尾は二人の顔を交互に見て、どちらが先に口を開くか待っていた。聡は苦笑いを浮かべ、「知り合いというか……ライバルというか……」と言葉を濁していた。

 

最後にやって来たのは、聡と四天王ジムを取り合っていたシルバーだった。相変わらず、季節は関係なしにサングラスをかけていた。

 

「まさか、呼びかけの首謀者がお前だったとはな」

「……シルバーさん、一緒にレイドやってくれませんか?」

「…………」

 

沈黙が流れた。やはりダメだったか……と聡が肩を落とした時、シルバーはスマホを取り出した。

 

「ホウオウ……か。なら、利害は一致してる」

「えっ?」

 

聡もスマホを確認すると、ワタルジムにホウオウが現れていた。これで役者は揃った。

 

「ありがとうございます」

「勘違いするな、ホウオウのためだ」

「それでも、ありがとうございますっ」

「…………」

 

五台のアカウントがレイドの準備画面に入った。シルバーも40レベルになっていた。青、赤、黄のトッププレイヤーたちが協力する光景は、まさにレイドバトルの醍醐味だ。

 

かつては敵として戦ってきた三人が、今は手を取り合って強敵に挑む……。これこそ、ポケモントレーナーのあるべき姿だった。

 

今までのわだかまりを捨て去り、ただ純粋に伝説のポケモンに挑戦する彼らに勝るものはなかった。

 

聡はすべての事情を忘れ、ポケモンバトルをただひたすらに楽しんだ。小人数でのレイドバトルは、一瞬の操作ミスも許されない。それが余計に夢中にさせる。

 

「ストーンエッジっ!」

 

聡の指示でバンギラスの大技が飛び出し、地面から伸びた鋭い岩がホウオウに直撃する。

 

その時、虹色の羽根がくるくると舞い落ち、聡の足元で止まった。

 

聡は、それを拾い上げた。色が失うことはなく、七色の輝きが眩しい明日を見せているようだった。

 

「いいのか?」

 

その問いかけに答えるように、ホウオウは聡の前に降り立った。戦っていた時に感じた身を焦がすような熱さはなく、むしろ包まれているような温かさがあった。

 

「ありがとう、ホウオウ」

 

聡が瞬きをする僅かな間に、ホウオウは目の前から姿を消していた。代わりに、スマホの中でゲットチャンス状態となっているホウオウが表示されていた。

 

「……捕まるといいな」

 

シルバーはボソッと言うと、窓を閉めて車を出した。聡は、深々と頭を下げた。

 

「おいっ、そんなのはええから、さっさとやれや」

「え?ああ、うん。あっ……」

 

すでに人差し指が画面についており、気づかずにボールを飛ばしてしまった。カーブもかからず真っすぐ飛んでいったボールは、ホウオウの胸元に当たってしまった。道具も使わず、なんの評価も受けられない状態でボールに入る。

 

「何やっとんねんっ!それじゃあ、ポッポも捕まらんわ!」

「あははっ……でも、まだ九球あるから」

 

コロッ……コロッ……コロッ……カチッ!

 

「……へっ?」

「おおっ!お前、持ってるやないかい!やるのうー」

 

今までの塩対応が嘘のように、ホウオウは簡単にゲットできた。父の図鑑にホウオウが登録される。

 

しばらく、状況が呑み込めずに放心状態だったが、徐々にやり遂げた達成感が聡を高揚させていった。

 

「おおおっしゃあああ!ホウオウ、ゲットだぜっ!」

「何、サトシみたいな台詞言うてんねん!あ、お前、サトシか……てっ、そんなことはどうでもええねんっ!それ、おとんに届けるんやろ?車、乗せたるわ」

「マジかっ!助かる!」

「……急にフランクやな、まあええわ」

 

車に乗り込み、牛尾が道路を縫うように運転している間、聡は助手席でLINEを送った。

 

 

ドラゴン

『皆さん、お騒がせしました。無事、父親のアカウントでホウオウゲットできました』

ファング

『@ドラゴンさん おめでとうございます!これで心置きなく、東京へ行けます』

ロビンソン

『@ドラゴンさん 本当に良かったッス( ;∀;)取れなかったら、オレ顔向けできませんでした(笑)』

大統領

『@ドラゴンさん さすが西エリア最強の青だね』

会長

『ようやった』

イーグルアイ

『@ドラゴンくん 良かったね。早く届けてあげて』

ヴィーナス

『@ドラゴンさん お父さんにはもう会えた?』

 

 

結果報告を見てくれた人たちから、お祝いのスタンプが次々と押されていく。それは『絆』のメンバーばかりではなく、事情を知らない方たちからも送られてきた。感謝の言葉を打つのも忘れ、送られたメッセージを何度も読み返した。

 

程なくして、車は病院の玄関で停車した。聡は感謝を口にしながら降りると、牛尾に呼び止められた。

 

「聡……また、バトルしようや」

「ああ、またね」

 

牛尾はぎこちない笑顔を見せたあと、車を走らせた。

 

聡は病室まで駆け上がると、父がストレッチャーに乗せられて運ばれるところだった。

 

「父さんっ」

 

聡が近寄ると、父は穏やかな表情を見せてくれた。聡は父のスマホを取り出すと、ポケモンボックスの画面を開いた。

 

「ホウオウだよ、見たいって言ってたろ?」

「捕まえてくれたのか?綺麗だな……ありがとう、聡」

 

聡の手に、父の手が乗せられた。聡は力強く握ると、近くにいた母と看護婦と一緒に手術室まで見送った。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

ドアが開かれた先は、光に包まれているように見えた。まるで、殿堂入りの部屋のように眩しかった。

 

聡は母と一緒に、父が戻ってくることを祈り続けた。

 

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35・世界に一つだけのトキワのもりへ

ひとひらの桜の花びらが、聡の部屋に入り込んだ。頬の上に落ちたが、聡は気づかず眠り続けていた。

 

ピロン……ピロン……とLINEの受信音が鳴り、聡は寝ぼけながらスマホを手に取った。

 

「……えっ、マジかよ!」

 

眠気が一気に覚めると、パジャマの上にパーカーを羽織って階段を駆け下りた。

 

「あら、聡ちゃん。今日は早いのね」

 

居間にいた母は、父の体のストレッチを手伝っていた。

 

「芝浦公園にラッキーが出たって、ファングさんに教えてもらったんだ」

「あらいいわね、お母さんも欲しいわ」

「ったく、しょうがないな」

 

聡はテーブルの上にあった母のスマホを手にした時、父に「待て」と呼び止められた。あごをしゃくっており、その視線をたどると父のスマホが見えた。

 

「はあ?なんで赤の『ラッキーのアメ』を増やさないとならないんだよ」

「レイドで使うかもしれないだろ」

「ああそうか……いやいや!ハピナスはジム防衛にしか使えないから、やっぱり意味ねえわ」

「なんだとっ!それが父親に対する態度かっ……あ、痛たたた」

 

最近は腰も痛むようで、急に立ち上がるのが辛いようだ。母は、そんな父の腰をさすってやる。

 

「聡ちゃん、可哀そうだから捕まえてあげて」

「はいはい、分かったよ」

 

玄関で靴を履いていると、「パイルだぞ」と父の声が聞こえた。図々しいにも程がある。

 

「聡、気をつけてな」

「……うん、行ってきます」

 

聡はドアを開け、外へと飛び出した。街路樹には新緑が芽吹き、ところどころに植えられた桜の花びらが春風でなびいていた。

 

ここは常磐町。聡にとって、世界に一つだけの『トキワのもり』だ。

 

きっと、『トキワのもり』は世界中の至るところに存在する。ただ、そこで出会うポケモンもトレーナーも全く異なる。だから、ポケモンGOはプレイした場所によって、何万……いや、何億通りの冒険を楽しむことができるのだ。

 

スマホ一つあれば、誰でも簡単にポケモンが棲む仮想世界に入ることができる。街路樹にはキャタピーやビードルが、電線にはポッポが群れでとまっているのが見える。

 

その時、足元の草むらで音がした。よく見ると、黄色い耳がひょっこりと出ている。聡が近づくと、そのポケモンが勢いよく飛び出してきた。CPもキュートなピカチュウだった。

 

「『トキワのもり』のピカチュウか……よしっ」

 

聡はモンスターボールを取り出すと、ピカチュウに向かって投げつけた。

 

世界に一つだけの物語が、今日も始まる。

 

Fin

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございます。著者の片桐圭です。

 

私がこの物語を通して伝えたかったことは、たった一つです。

 

それは、『ポケモンやってる人に悪い奴はいない』ということです。

 

ポケモンGOをプレイしていると、色々な葛藤に苛まれることがあります。おそらく、あなたが思っていることが正しいですし、あなたが被害者だと思います。

 

ただ、その葛藤の原因がなければ、つまらないポケモンGOとなっていたことも事実ではないでしょうか?

 

あなたが入っているジムが壊れなければ永遠に50ポケコインは入りませんし、誰もいなかったらレイドバトルで伝説のポケモンはゲットできません。

 

誰かがいたからこそ、あなたのポケモンGOのドラマが一つ増えたと捉えることができるのです。

 

もし、選んだ道が同じ相手を敵ではなくライバルとして思うことができれば、ポケモンGOはもっと楽しいスマホアプリになるでしょう。

 

それでは、あなたとポケモンGOの世界ですれ違えることを祈りつつ……。

 

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