この内容は、『めざせジムリーダー』の第1章~2~です。
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目次
【第1章】30代無職、ポケモントレーナーになる~2~
4・ポケモン上の都合で退社します
出社するなり、聡は上司に深々と頭を下げた。
「今まですいませんでした」
『いわなだれ』の怯みでも貰ったように、上司は口をあんぐりと開けて動けずにいた。しかし、聡は手を緩めることなく、怒涛の攻撃を浴びせていく。
「企業が欲しい人材は、PWCSに出場できるような読み合いに長け、現環境の対策をしっかりと考察している人物であることを、イマサラタウンですが気づくことができました。オレ、就職氷河期世代だったから、中途採用でも『とりあえず入れればいい』という気持ちでこの企業を選んでしまいました。でも、そんなことじゃダメなんですよね。XYレートの考えでパーティを組んでも、ORASレートでは通用するわけがないんです」
上司は落ち着くためか、とりあえず置いてあった缶コーヒーを飲み干した。一呼吸おいて、聡と向き合う。
「まっ、あれだ。例え話は一つもピンとこなかったが、お前が反省していることは十分すぎるほど伝わったよ。いやー、分かってくれればいいんだよ。これからは気持ちを入れ替えて、頑張ってくれたまえ」
「はい、今までお世話になりました」
「うむ、ご苦労様……え?」
机に置かれた白い封筒を見せられ、上司は聡を二度見した。聡の表情は、実に爽やかな笑顔だった。
「お、お前っ!やめるって、この先どうする気なんだ!」
「とりあえず、トレーナーを本気で目指そうかな、と思います」
「……スポーツのトレーナーか?」
「いえ、ポケモントレーナーです」
上司は、手にしていた缶コーヒーを滑り落とした。聡は一礼すると、唖然としていた先輩たちにも笑顔で会釈をして、会社を後にした。
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5・定年退職した父
「何を考えているのだ、お前は」
親子三人の夕食は、いつも母だけが喋るところだが、今日ばかりは父の口が止まらない。
「お前、今年で三十になるんだぞ。三十過ぎたら就職しづらくなるんだ」
父の言葉に聞く耳を持たず、聡は黙々と食べていた。更に言葉を重ねようとした父に、母は「大丈夫、聡ちゃんなら分かってるわよ」となだめた。
だが、父は箸をテーブルに叩きつけるように置いた。そこまでされては、聡も箸を置くしかない。
「何度も仕事を辞めて、次はユーチューバーだ?お前はただ、ゲームがしたいだけだろ!」
「ユーチューバーは、すでに確立されたビジネスだ。無謀じゃない」
「三十路手前で夢みたいなこと抜かすな!」
父は立ち上がったあと、バタンッ、とドアを閉めて、寝室に入ってしまった。母はため息をついたあと、聡の肩に手を置いた。
「お父さんは聡ちゃんが心配なのよ、分かってあげて。ほら、お父さん定年退職したし、色々思うところがあるのよ」
去り際に見た父は、染めたように真っ白な髪だった。自分が大人になるにつれ、親は老いていくことを今更ながら理解した。
「うん、分かってるよ」
「そうだ、お母さんもポケモンが配信されたら、やってみようかしら」
「ええ?LINEも送れないのに?」
でも、聡はそうなれば良いかもしれないと思った。父と同世代の母も、健康のためにこまめな運動が必要だと医師に忠告されていた。
ただ、散歩も長続きしなかった飽き性の母が、ポケモンGOをプレイし続けるとは思えなかった。
夕食を食べ終えた聡は自室に戻ると、ベッドに転がりながらスマホを操作した。
アッシュ@キミに決めた
『ポケモントレーナーになるために仕事辞めたわ』
※※※@※※
『リアルサトシ爆誕wwwwwwwwww』
※※※@※※
『アメリカでそんな奴おったわ、日本にも実在してて草』
※※※@※※
>>1
『ザマァァァwwwwwwwwww』
聡は『プロフェッサーオーク@ポケモン川柳』の書き込みを待っていたが、今日に限っては返答がなかった。
「これは、マジで積んでるのかもな……」
聡は額にスマホを乗せ、深いため息をついた。
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