この内容は、『めざせジムリーダー』の第1章~4~です。
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目次
【第1章】30代無職、ポケモントレーナーになる~4~
8・バチバチ
街路樹が森のように立ち並ぶ常磐町内は、楕円形になっている。
真ん中も住宅地があるため、隣り町に向かう車は町内を半周しなければ移動することができない。
そんな町内には、四つのジムがそびえ立っていた。
時計の一時の方向にある『嘉南公園』。
五時の方向にある『芝浦公園』。
七時の方向にある『菊のオブジェ』。
そして、十一時の方向にある『渡るアヒルのレリーフ』。
名前が似ていることから、『カンナジム』『シバジム』『キクコジム』『ワタルジム』と聡は命名した。通称、四天王ジムである。
バチバチ……。
ワタルジムに火花が散る。ジムは、別チームが攻撃することで名声を減らすことができるが、味方が攻撃することで上げることもできる。
そのため、青チームである聡は、その動向を観察していた。
3レベルだったワタルジムはどんどん縮まっていき、最後には更地となった。
入ってきたのは、フルネームをそのままアカウント名にした10レベルの赤チームだった。この手のユーザーが小学生であることは、この二日間ですでに熟知していた。
「短パン小僧よ、君にそのジムはまだ早すぎる」
17レベルの聡は、まるでエリートトレーナーのような足取りでワタルジムに近づいた。
聡の実家は常磐町のど真ん中にあるため、どのジムに移動するにも五分あればたどり着く。
『渡るアヒルのレリーフ』は、歩行者専用通路に描かれた自然石アートだ。子供の頃に通った記憶しかない場所だったが、今は通い続ける毎日だった。
現地に到着すると、モンスターボールを構えるかのようにスマホを取り出した。
「シャワーズ、キミにきめた!」
イーブイを乱獲して育てたシャワーズの『ハイドロポンプ』で、ジムに入っていた三匹のポケモンを追い出していく。
「ふん、他愛もない」
ピジョットをジムに乗せると、ジムのてっぺんで勇ましい翼を羽ばたかせていた。
その光景を見ると、聡はジムリーダーになった気分だった。
ワタルジムの名声でも鍛えようかとポケモンボックスをチェックしていると、使っていないはずのパラセクトが傷ついていた。
このパラセクトは、シバジムを防衛させていたものだった。
「ちっ、あと三十分で防衛ボーナスがもらえるというのに」
二十一時間ごとに防衛ボーナスをもらうことができ、所有しているジムに応じて最大百ポケコインまで入手することができる。ポケコインがあると特別な道具を手に入れることができるため、誰もが必死でジムを奪うのだ。
ここからでは、奪われたシバジムは見えない。見えるのはカンナジムとキクコジムだが、なんとカンナジムはバチバチと火花を散らしていた。
「短パン小僧め、カンナジムに移動したなっ」
カンナジムからシバジムの経路で移動すれば、ロスタイムが少ないと判断した聡は、『Bボタン』を押しっぱなしにした主人公のようにダッシュした。
この二日間を歩き続けたせいで、足の至るところに激痛が走っていたが、聡を突き動かす衝動のほうが勝っていた。
「ポケモンじゃ負けられないんだよ!」
カンナジムがある嘉南公園は、ブランコしか遊具がない寂しい公園だった。誰も立ち寄らない公園として有名だったが、今ではトレーナーたちがひっきりなしに訪れる人気のスポットとなっていた。
カンナジムに到着すると、自転車に跨った小学生が通り過ぎていった。いなくなるのを確認すると、ポケットからスマホを取り出す。
大人げない聡は、主力のシャワーズでジムに入っていたピジョンをボコボコにし、防衛用のシャワーズを配置した。
シバジムに移動しようかと足を踏み出した時、渇いたアスファルトを自転車の走る音が聞こえてきた。なんと、先ほどの小学生が戻ってきたのだ。
聡はトイレの影に隠れると、すかさずサンダースを使って名声を上げる作業に入った。
案の定、小学生は自転車に跨った状態でジムを壊し始めていた。通常なら、名声を上げるより下げるほうが効率がよいので、聡のほうが不利である。
しかし、そこはレベルの差とポケモンの数が物をいう。ガンガン名声を上げていき、なかなかジムを壊せない状況を作り出すことができた。
小学生が諦めて帰っていく姿を見て、聡はほくそ笑んだ。
「小学生でスマホを持たせてもらえるだけ、幸せだと思うんだな」
聡は戻ってこないことを確認すると、シバジムへと急行した。すでに時間は十五分を切っていた。
シバジムがある芝浦公園は、常盤町で一番大きい公園だ。毎年恒例の盆踊り大会もここで行われる。
シバジムに入っているアカウント名を見ると、今度は違うフルネームが表示されていた。
「ここは虫取り少年かぁぁぁっ!上等じゃねぇか、トキワのもりで迷子にしてやるよ!」
ジムが更地になるまで、聡は攻撃の手を緩めることはなかった。
「ふぅ、これですべてのジムはアッシュが制圧したぜ。常盤で最強は誰か、これで分かっただろう」
聡は満足すると、ポケモンを捕まえながら自宅へと戻った。そこで、ちょうど防衛ボーナスが貰える時間となる。
聡がボーナスを受け取る画面を見ると、数字は『0』に変わっていた。
辺りを見回すと、自宅に戻るわずか十分間のうちに、今まで安泰だったキクコジムを含むすべてのジムが他チームに制圧されていた。
「……自転車、オレにも必要だな」
次の日、聡は自転車を経費で購入した。
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9・女神降臨
ポケモンGOが配信され、早ひと月が経とうとしていた。
小学生たちの夏休みが終わったことで、昼間からジムがバチバチと火花を散らすことは少なくなっていた。
そのため、四天王ジムには青のタワーがそびえ立っていた。
そのすべての頂点に、聡のポケモンが鎮座している。最高に気分が良い瞬間だ。
その時、6レベルのカンナジムにバチバチと火花が散った。あそこにいるのはCP2000以上ばかりなので、そう簡単に壊れることはない。
「念のため、現地で名声を上げておくか」
そう思って自宅を出ようとしたが、その足が止まる。名声は下がらず、どんどん上がっていく。
「ほう、青か。ならば、オレのジムトレーナーとして貢献するがいい」
そんな概念があるわけではないのだが、てっぺんにいるトレーナーは『ジムリーダー』、二番目が『サブリーダー』、その他は『ジムトレーナー』と勝手なランク付けをしていた。
ようやく火花が止み、ジムの段差が上がる。聡はどんな奴が入ってきたのかを確認するため、ジムをタップした。
一人目、二人目……とスワイプしていくが、新顔のトレーナーが姿を見せない。
「なるほど、そこそこできる奴だったか。ならば、ザブリーダーとして迎え入れよう」
そう思いながら指を動かしたあと、聡はスマホを凝視した。なんと、ドラゴンアッシュのシャワーズがサブリーダーになっている。
「な……何ぃぃぃ!」
すぐさま一番上を確認すると、ヴィーナス(venus)と書かれた女性のアバターが入っていた。
「たった一ヵ月で30レベルだと?何者なんだ……」
まったりとプレイしている人から見れば、25レベルの聡もおかしい部類に入るのだが、それでもこの差はデカい。
ヴィーナスは次々と四天王ジムを建築していき、最後のワタルジムでCP3000超えのカイリューを置いて去っていった。
ジムが強固になったのだから喜ぶべきなのだが、今までサブリーダーに甘んじることがなかった聡にとっては完全な敗北だった。
「はあ……やっぱ、上には上がいるんだな」
どんなにポケモン好きで強さを語ろうとも、orasでレート千七百代では井の中の蛙ということだ。
ポケモンGOでも、聡より情熱を費やす者は大勢いるのだろう。
そう思うと、急にやる気を失ってしまった。
聡はポケモンGOを閉じると、ポケモン掲示板の入力フォームを立ち上げた。
アッシュ@キミにきめた
『地元で最強だと思ってたら、速攻で抜かれたwwwやる気なくすわw』
※※※@※※
>>1
『お前、何様だよ』
※※※@※※
『オレの近くはすでに40だらけだぞw』
※※※@※※
『このアプリは時間がある奴には勝てない』
※※※@※※
>>1
『ニートなのにwwwザマァァァwwwwwwwwww』
すると、ワンテンポ遅れて、待っていた書き込みがあった。
プロフェッサーオーク@ポケモン川柳
>>1
『サトシは未だにリーグ制覇を成し得ていない。お前が目指すポケモンマスターへの道とはそういうもの』
二十年という歳月をかけても、アニメのサトシはその夢を叶えることができていない。にも関わらず、今も旅をやめようとはしていなかった。
「サトシ先輩を見習わないとダメってことか……」
うまくいっていないのは、ポケモンGOだけの話ではない。
スマホを操作し、今度はユーチューブの管理画面に移動した。再生回数を確認したが、数百円の収益しか見込めない状態だった。
「オレはまだ始まったばかり……。諦めるわけにはいかないな」
聡は起き上がると、今度はユーチューブの儲かり方について調べ始めた。
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