この内容は、『めざせジムリーダー』の第3章~3~です。
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目次
【第3章】集え!レイドバトル~3~
20・伝説レイド
レイドバトルの最大の楽しみといえば、5レベルの黒いタマゴだ。
5レベルは、野生では絶対に捕まえることのできない伝説のポケモンが出現する。
記念すべき最初の伝説は、フリーザーとルギアだった。
40レベルが揃えば、三、四人でも倒せるとネットでは紹介されていたが、地方のポケモントレーナーではそううまく揃うわけがない。
それでなくても、こないだまで飽きて辞めていた人たちが大半なので、30レベルが集まれば上出来だった。
だからこそ、38レベルの聡の存在は重宝された。
レイドバトル専用のLINEを開くと、伝説レイドの初日ということもあってか、すでにあちこちの公園で募集がされていた。聡を呼ぶ声もちらほら混ざっている。
このLINEは、双葉市のポケモンGOトレーナーだけが集まっているものであり、ファングと仲良しの会長が立ち上げたものだった。
石英町の町内会長という知名度も後押ししたのか、LINE参加者はすでに二百人を超えていた。そのため、レイドのタマゴが出現する場所の情報はもちろん、レアポケモンが出現したときの情報も皆で共有し合っていた。
ファング
『渡るアヒルのレリーフで5玉出てます。やる人いますか?』
会長
『はい』
大統領
『@ファングさん 行きますよー』
イーグルアイ
『@ファングさん 開始は何時ですか?』
ロビンソン
「@ファングさん 向かいます!!」
ヴィーナス
『参加します(‘◇’)ゞ』
この内容を見て、聡は伝説レイドをここで行うことにした。理由は、顔見知りがいるだけではなかった。
「ロビンソンさんとヴィーナスさんも来るのか、楽しみだな」
アカウント二台持ちのロビンソンと40レベルのヴィーナス。旧ジムの時にお世話になった青チームの人たちだ。
新ジムになってからは、複数のジムを所有しなくてもポケコインが稼げるため、最近の四天王ジムではあまり見なくなっていた。なので、少し寂しい気持ちがあったのだ。
とくに、ヴィーナスと会うのは楽しみだった。顔文字を使うぐらいだから、どうやら本当に女性のようだ。
聡は時間になると、母と一緒にワタルジムに向かった。うだるような暑さで、蝉の鳴き声しか聞こえない日だった。
現場に到着すると、車が続々と集まってきていた。他にも知らない人が多くいたが、その中にファング夫妻、会長、大統領、イーグルアイの姿を見かけ、挨拶を交わした。その輪には、若い男性の姿もあった。
「ドラゴンさんはまだ、ロビンソンに会ったことなかったでしたっけ?」
ファングはそういうと、色白だがルカリオのように整った顔立ちの男性を紹介してくれた。ロビンソンは、まだ二十五歳だった。
「あっ、どもッス」
「二台持ちの人ですよね?」
「あっ、はい。サブの『げんきのかけら』なくなりそうでヤバいッス」
初めて聞く二台持ちのあるある話に耳を傾けていると、遠くから女性が近づいてくるのが見えた。聡は直感的にヴィーナスだと思った。
その距離が近づくと、聡は天を仰ぎ見るしかなかった。ヴィーナスは、女神だったころから三十年後の姿で現れた。
「遅くなりましたー」
ヴィーナスが笑うと、銀歯がキラリと輝いた。間違いなく、神々しい姿だった。
「あー、何が出てくるか楽しみですねー」
聡は棒読み気味でそう言いながら、タマゴが割れる瞬間を待った。割れた際に発せられる光の中から飛び出してきたのは、真夏を一瞬で凍えさせる冷気をまとったフリーザーだった。
『ふたごじま』のフリーザーがなかなか捕まえられず、マスターボールでゲットしてしまった記憶しかない伝説のポケモンだった。
はたして、今度はプレミアボールで捕まえることができるだろうか。
バトルは人数がいたので快調だった。巨大だったフリーザーはみるみる縮んでいき、ゲットチャンスとなる。ボールは十二個獲得していた。
「もらったぁ!」
フリーザーの動きに合わせてボールを放る。なんとか当たり、フリーザーが入ったボールが地面に転がった。
コロッ……パンッ!
フリーザーは、何事もなかったかのようにボールから出てきた。
「くっ、まだまだ!」
コロッ……パンッ!
コロッ……パンッ!
だが、何度やっても入らない。かつてのフリーザーを見ているようだった。
最後の一球でExcellentの評価が出たが、フリーザーは同然のようにボールから飛び出してしまい、ワタルジムから飛び去ってしまった。
「逃がしたぁぁぁ!」
周りも同じだったようで、落ち込む聡に同情の声をかけてくれた。顔見知りでゲットできたのは、会長とイーグルアイだけだった。
ファングもかなり悔しかったようで、「次、行きましょう!どこか、沸いてません?」とLINEの情報を確認していた。
聡も同じ気持ちだった。ポケモンGOのフリーザーにも、赤緑の時と同じ苦汁を舐めさせられるとは思わなかった。
ポケモンGO……やはり、面白い。
決戦の地は、石英町のジムとなった。相手が『れいとうビーム』だろうと『ふぶき』だろうと、叩きのめす準備はできていた。
しかし、その期待は裏切られた。黒いタマゴを割って出てきたのは、フリーザーではなくルギアだった。
「何ぃぃぃ!でも欲しい……」
フリーザーの気分ではあったが、今度は『うずまきじま』で迷子になりながら見つけ出したルギアの感動が甦っていた。
大人たちはスマホを片手に円となって、ルギアをボコボコに叩きのめす。縮んだところに、一斉にプレミアボールを投げつける。
ボールに入って歓喜する者、弾かれても諦めずに投げる者……様々な声が公園内で入り混じった。
そして聡は、力なくため息をつく者になってしまった。母でさえゲットしているのに、なんという厄日だろうか。
「ドラゴンさん、次があるッス!」
ロビンソンが声をかけてくれた。その優しさには心惹かれるが、彼のスマホ画面に映っているルギアのステータス画面が微妙に腹立たしい。
とはいえ、ひがんでいても始まらない。フリーザーもルギアも、ポケモントレーナーとしては絶対に捕まえたいところだ。
「大人の戦い方、するしかないな」
みんなが次の場所に移動している間、聡はコンビニに立ち寄った。手に取ったのは、ポケモンGOの生活を豊かにしてくれる青色のプリペイドカードだ。
ただし、使いすぎると現実世界の生活を貧しくするカードでもあるので、ポケモントレーナーなら使い時を誤ってはならない。
ポケモンGOは、あくまで仮想世界であり、現実世界ではないのだ。
だからこそ、みんな夢中になってしまう。
でも、その境目があることを忘れてはならないのだ。それが、ポケモンGOトレーナーの正しい在り方なのだから……。
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21・絆
それは、フリーザーがジムから飛び立ち、代わりにファイヤーがやってきた頃だった。
いつものようにレイドバトル用のLINEを確認していると、聡のLINEアカウントに直接返事が届いた。
ファング
『芝浦公園のジムでレイドやりませんか?ついでに話もあります』
シバジムにはバンギラスがいるので、レイドに関して問題はない。だが、話とはなんだろうか?
聡は行くと返信したが、内心ドキドキしていた。
シバジムに到着すると、ファング夫妻、会長、大統領が待っていた。特に表情が険しいわけではないので、まずはホッとした。
「実は、レイドグループを作ろうと思うんです」
「えっ?LINEのですか?」
ファングの申し出に、聡はきょとんとしてしまった。LINEのレイドグループは、すでにあると思ってしまったからだ。
「大勢のものとは別に、身内だけで作りたいんですよ。あっちだと、あんまり突っ込んだ話ができないじゃないですか」
確かに、それを危惧した出来事があった。
一週間ほど前、レイドバトル用のLINEで二人の女性がポケモンとは関係のない話で盛り上がってしまい、他のユーザーから注意をされてしまったのだ。
「確かに、そうかもしれませんね」
「ぜひ、ドラゴンさんにオレらのグループに入って欲しいんです」
聡に断る理由はなかった。もともと人付き合いが得なほうではなかったので、ファングたちが参加を希望しているレイドにしか行ったことはない。ならば、手間がなくなるというわけだ。
聡のスマホにLINEの招待が届いた。グループ名は『絆』だった。
「ははっ。ちょっと臭いとは思ったんですが、でも、オレたちポケモンっていう繋がりだけで出会ったわけで……。その、一番しっくりくる名前かなっ……と」
ファングは照れ臭そうに説明してくれた。聡は最初から思っていた。素晴らしい……と。
色の隔たりを越え、レイドバトルのために集まるグループを『絆』と呼ばず、なんと表現できようか。
「『絆』いいと思います。これからもお願いします」
聡の返答に、ファングは満足そうだった。
*
『絆』のメンバーは、聡を入れて二十五人だ。
中央エリアのプレイヤーも参加しているため、半数以上は知らなかったが、代わりに西エリアはほとんど顔見知りがいた。
青チームのファング夫妻、ロビンソン、ヴィーナス。
赤チームの大統領、イーグルアイ。
黄色チームの会長。
その他にも三人ほど西エリアのトレーナーがいるため、『絆』の呼びかけだけでも西エリアの平日レイドは可能だった。
その中の一人に、牛尾という男がいた。聡と同じく、今年で三十一歳になる。
見た目は完全なチンピラだった。スカジャンを着て、何故か関西弁を使いたがる。出身ではないので、文法はでたらめだった。
聡も何度かレイドで会ったが、あまり好きなタイプではなかった。そもそも牛尾は、ファングや会長の推薦で入ったわけではなく、中央エリアの人からの紹介で『絆』に参加していた。そのため、ファングもそれほど好んでいる様子ではなかった。
だが、トレーナーレベルは38もあるため、レイドに来てもらう分にはありがたい。それでなくても『絆』はまだまだ人数が少ないため、牛尾が来ることに文句を口にする者はいなかった。
サンダーレイドが終わりを迎える時までは……。
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