この内容は、『めざせジムリーダー』の第3章~2~です。
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目次
【第3章】集え!レイドバトル~2~
18・ライバル
聡がポケモンの話をする相手は、今までインターネットの中だけだった。
しかし、レイドバトルという概念が聡の世界を広げた。
レイドバトルで集まるようになった顔見知りたちは、ポケモンの知識が豊富な聡にこぞって質問をぶつけてきた。それを照れ臭そうに……だが、いつしか自慢げに話している自分がそこにはいた。
それはまるで、小学生のときに同級生たちとポケモンについて語り合った日々のようだった。
夕暮れどきまでポケモンに夢中だったあの頃は、もう戻ってこないと思っていたが、まさか大人になっても味わうことができるとは想像もしていなかった。
ポケモンに対する知識や情熱は違えど、仕事帰りにみんなで集まってバンギラスレイドをする彼らは、間違いなくポケモントレーナーだった。
そこに色の境はなかった。青チーム、赤チーム、黄色チーム、すべてのトレーナーが円になってスマホ画面に夢中だった。
そして、その日のレイドで新たな出会いがあった。大統領がイーグルアイを連れてきたのだ。カツラジムをハピナスで固めていた、聡の最大の敵だ。
年齢は三十七だというが、それより若い印象を受けた。知的な眼鏡をかけたイーグルアイは、まさかの女性だった。
フェローチェ並みに細くて高身長のイーグルアイは「ドラゴンくん、こんばんわ」と挨拶をしてくれた。
そこに敵としてのわだかまりは一切なかった。
その時、聡の頭の中にはアニメのオープニングテーマ『ライバル』の曲が流れずにはいられなかった。
時の流れは ふしぎだね
“どっちが勝ったか ねえ おぼえてる?”
いまでは ホラ
笑いながら 話ができるよ
“わすれたね!”って とぼけてる
そんな オレのライバルたち
ポケモンでは、選んだ道が同じ相手を『敵』ではなく『ライバル』と呼ぶ。
古い言葉を借りるなら、『昨日の敵は今日の友』である。
ポケモンという同じ趣味を持った彼らは、最初から憎むべき相手ではなかったのだ。
その時、ふとシルバーのことを思い出した。
更地マンのシルバーもまた、そう考えるとライバルなのだ。
「あの人とも和解できたらな」
そんなことを思わずにはいられなかった……。
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19・金ズリ防衛
新しく生まれ変わったジムは、最大で六匹までしか配置することができない。
そして、そのジムにポケモンを配置した順番が戦う順番となる。
つまり、相手チームから四天王ジムを取り戻したら、聡が先頭になるわけである。
そのため、シルバーの『だるま落とし』のねらい目となるわけだ。
「こいつは全然ブレないな……」
先頭のポケモンがジムから弾かれると、そのジムにあと一人だけ入ることができる。そこで入れると、一番後ろになるわけだ。
その仕組みを利用し、聡はジムから追い出されたらすぐに入れるわけだが、それが成功すると今度は更地にして去る……。
これが、新ジムになってからの四天王ジムの現状である。入れる人数が少なくなった分、ジムが壊しやすくなったので、更地問題は前よりも深刻化していたのだ。
新ジムの更地は、赤チームに見つかると具合が悪い。二十分もしないうちに一気に六匹が入ってしまい、壊すのに一苦労である。
新ジムになってから『ジムバッジ』のシステムが登場し、貢献度に応じて『銅バッジ』『銀バッジ』『金バッジ』と育ってくれるため、今のところは四天王ジムを壊すとバッジが育つので問題はない。
だが、『金ジム』になった後は聡にメリットが少なくなる。そうなると、シルバーの思う壺である。
「シルバーはレイド来ないし、話す機会もないんだよなあ」
西エリアではレイドをしないのか、聡が行うレイドにはまったく現れなかった。違うエリアでレイドをしているのか、一人でしかレイドをやらないかのどちらかだろう。
どちらであれ、ジョウト地方のライバルと同じく、孤高の強さを求めているように見えた。
「全部の相手と分かり合うのは、さすがに無理があるのかな……」
二十一時過ぎ、そんなことを思いながらポケモンGOを起動すると、奇妙な光景が広がっていた。
ワタルジムに黄色のジムがそびえ立っている。風呂に入っていた間に、シルバーが壊したようだった。最近、アカウントを晒していなかったので知らなかったが、もう39レベルになっていた。
三十分間で黄色チームが六人揃うことは西エリアでは珍しかったが、シルバーの執念が呼び寄せたのか、見事に実現していたのである。
「……よし、壊すか」
聡は外に出た。別に、悪意があるわけではない。シルバーが姿を現したということは、聡を誘っているということだ。その挑戦は、ポケモントレーナーとして受けねばなるまい。
ワタルジムには、シルバーのハピナスを先頭に、カイリュー、バンギラス、カビゴンの高CPが入っていた。あとの二匹は低CPだったため、この四匹を倒すことが攻略のカギとなるだろう。
「これは、ラプラスと『ばくれつパンチ』のカイリキーでKOだな」
大したことはない……それが、このジムの第一印象だった。
バチバチ……。
攻略は順調だった。新ジムでは、攻撃するたびにジム内のポケモンの『やる気』が下がる。三回続けて攻撃するとゼロになり、ジムから弾かれる仕組みだ。
二度目の攻撃が終了し、聡はポケモンたちを回復させた。残すは、あと一回である。
「……な、にぃぃぃ!?」
いざ戦おうとすると、さきほどまで『やる気』が下がっていたポケモンたちがMAXまで回復していたのだ。
『やる気』を回復させるためには、『ズリのみ』や『パイルのみ』といった木の実を与える必要がある。
だが、一度でMAXに回復させることができるのは『きんのズリのみ』だけだった。それは、レイドバトルでしか入手できない貴重な木の実だった。
シルバーは、それを躊躇いもなく投げてきたのである。
「ほう、これが噂の金ズリ防衛というヤツか……楽しませてくれるっ!」
バチバチ……。
「はあ、はあ……どうだ。ぬぅぅ!」
再び、ポケモンたちがMAXまで回復している。ハピナスはあざ笑るかのように、ルンルンした様子だった。
「こいつ……金ズリ投げることに躊躇いはないのかっ」
五分で終了する予定だったジム戦は、いつしか十分……二十分とかかってしまった。簡単に攻略できると思っていたので、モバイルバッテリーは持っていなかった。
これは、携帯の電池が力尽きるか、相手の金ズリがなくなるかの勝負となった。
二十五分……三十分……そして、ついに四十五分が経過した。
二十回目の攻撃を加えたあと、ようやく回復することはなくなった。鬼の形相で攻撃を加えてきた聡だったが、その時になって初めて、言いようのない達成感が芽生えた。
10レベルジムを壊すことに慣れていた聡にとって、新ジムは簡単すぎてつまらなかった。だが、金ズリ防衛の攻略は新たな高揚感をもたらせてくれた。
更地にしたあと、ポケモンを入れようとしたがそれは無理だった。スマホの画面は真っ暗になって動かなかった。
「楽しかったですよ、シルバーさん。また、バトルしようぜ」
聡はそう口にした。この頃は、まだ木の実の遠隔操作ができなかったため、近くでしか木の実をあげることができない。だから、どこかにシルバーがいるのは分かっていた。
その言葉が届いたかどうかは分からない。ただ、次の日から『だるま落とし』がさせることはなくなった。
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