この内容は、『めざせジムリーダー』の第5章~3~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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目次

【第5章】ポケモンやってる人に悪い奴はいない~3~

32・虹の勇者

ファング

『@ドラゴンさん 待ちに待った日ですね。絶対にホウオウをゲットしましょう!』

ロビンソン

『@ドラゴンさん すみません、寝坊ッス(>_<)九時ぐらいからスタートします』

ファング

『@ロビンソン コラー(笑)』

大統領

『@ファングさん 人足りるから大丈夫です。十時には店に戻らないといけないので、ロビンソンくんは入れ替わりで頑張ってもらいましょう』

ロビンソン

『@大統領さん (‘◇’)ゞ』

ヴィーナス

『@ドラゴンさん 一戦だけですけどお願いします(^_-)-☆』

会長

『十時まで付き合います。絶対ホウオウ捕まえましょう』

イーグルアイ

『@ドラゴンくん 行けなくて本当にごめんなさい。赤の人たちには協力してもらえるようにお願いしておいたから』

 

 

『絆』のLINEに、ぞくぞくと熱い言葉が寄せられた。これほど心強いものはない。今日が平日だとしても、ホウオウゲットには何の障害もなさそうだ。

 

昨日のうちに、念入りに準備をしておいた。ファングの人徳のおかげで、『青龍』を含むあらゆるレイドグループに協力要請をしてもらった。これなら、市内のどこに5レベルのタマゴが登場しても、すぐに知らせてもらえる。

 

また、父はレイドバトルをまったくやっていなかったので、昨日のうちにレイドを重ね、『金のズリのみ』を二十個まで増やしておいた。これぐらいあれば、時間内で一匹は捕獲できるだろう。

 

更に、大統領やイーグルアイが夜通し動いてくれたおかげで、常磐町、石英町、桂木町は赤一色だった。これで、父のアカウントでレイドバトルを行えば、ボールが二個増えるという目論見だ。

 

そして今、八時五分にシバジムの5レベルが割れようとしていた。

 

聡は机にあった自分のスマホ、母親のスマホ、父親のスマホを抱きかかえてドアを開けた。病室で待っている二人にこれを届ける……40レベルのドラゴンアッシュにとっては、容易な任務だ。

 

聡は歩いてシバジムに向かった。万が一、ここで捕まえ損なったとき、ファングが車に乗せてくれる約束をしていた。

 

今日の天気は、清々しいほどの快晴だった。風一つ吹かない。十一月末とは思えない温かさだ。心なしか、ホウオウを身近に感じる。

 

シバジムにたどり着くと、かなりの人数が集まっていた。ファング夫妻、大統領、ヴィーナス、会長の他に、『青龍』メンバーの五人、イーグルアイが呼んでくれた赤のメンバーが三人、全体のLINEグループの呼びかけで集まってくれた四人。早朝にも関わらず、これだけ多くの人が来てくれたことに胸が熱くなった。

 

近づくと、『絆』のメンバーは笑顔で挨拶してくれた。聡は、一呼吸置いてから話し始めた。

 

「みなさん、今日はよろしくお願いします。ファングさん、忙しい時にすいません。空港の時間、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。十一時二十分までに市内を出れば着きますから。東京の孫とね、ホウオウを捕まえる約束をしているんですよ。だから、今はドラゴンさんのために絶対ゲットします」

 

自慢の孫の写メを聡に見せようとしていると、奥さんに「何やってるの!早くポケモンの画面に切り替えて!」と怒られていた。そのおかげで、場は一気に和んだ。

 

ファングの呼び声でレイドバトルがスタートした。スマホ二十台での一斉攻撃により、ホウオウは簡単に縮んだ。

 

待ちに待ったゲットチャンスだったが、聡は自分のスマホからボールを投げた。ホウオウとは初対面だったので、ボールを投げる距離を確かめる必要があった。

 

「ホウオウは近いな……調整しなきゃ……」

 

四球目で入り、成功の感覚を掴んだ。初ゲットの余韻に浸る暇もなく、母のスマホでチャレンジした。今度は八球で入り、幸先が良い成果となった。

 

ようやく父のスマホを取り出すと、『絆』のメンバーは息を呑んだ。何も知らないグループの人たちは楽しくお喋りをしていたが、聡たちは沈黙のまま、スマホに凝視した。

 

一球目は弾かれ、二球目でホウオウは吸い込まれた。評価はカーブのGreat。捕獲可能な範囲だ。

 

コロッ……コロッ……パンッ!

 

ホウオウが舞い戻り、周りから落胆の声が漏れた。残り八球……。

 

「なんでそんな真剣なの?」と事情を知らぬ中年男性が声をかけたが、リードに繋がれたポチファングに「ガルルルッ……」と睨まれ、そそくさと逃げていった。

 

聡は、ホウオウの威嚇が終わるのを見計らい、ボールを回転させて投げた。綺麗な放物線を描き、小さなサークルの中に落ちた。評価はExcellentだ。

 

「よしっ!」

 

聡のガッツボーズに、みんなも安堵した。カーブ&Excellent以上の高評価は存在しない。

 

コロッ……コロッ……パンッ!

 

「くっそっ!」

「大丈夫、冷静に」

 

悔しがる聡に、大統領は笑顔でエールを送った。聡は頷き、再びスマホと向き合う。残り七球……。

 

ホウオウの動きを読み、再びボールを放る。同じ軌道を描き、Excellentのサークル内へと落ちた。

 

コロッ……パンッ!

 

ホウオウは頑なに拒む。だが、聡も引き下がるわけにはいかない。残り六球……。

 

「これでどうだっ!」

 

再びボールはホウオウの顔を目掛けて飛び、Excellentの評価で閉じ込めた。

 

コロッ……コロッ……パンッ!

 

三回連続のExcellentからの飛び出しに、さすがの『絆』メンバーも悲痛の声を漏らした。残り五球……。

 

コロッ……パンッ!

 

コロッ……パンッ!

 

精神的に負けてしまったのか、サークルの中に入らず二球が無駄に終わった。残り三球……。

 

「大丈夫、石英町の五玉はあと十五分で割れるから」

 

会長にも励まされ、聡は持ち直した。再び、Excellentでホウオウをボールに閉じ込めた。

 

コロッ……コロッ……パンッ!

 

「…………」

 

聡に何かを喋る余裕は、すでになかった。残り二球……。

 

コロッ……パンッ!

 

ホウオウは、まるで拒むかのようにボールから飛び出した。Excellentの評価であっても、一度しかボールが転がってくれない。

 

「ラスト一球のバグはもうないから、まだ諦めないで」

 

ヴィーナスに背中を押さえ、聡は頷いた。残り一球……。

 

渾身のExcellentカーブボールが見事に決まり、ホウオウはボールの中へと吸い込まれた。

 

コロッ……コロッ……

 

「入れぇぇぇ!!」

 

その場の誰もが祈りのように叫んだ。声がやむ頃、ボールの動きが止まった。

 

パンッ!

 

ボールから出てきたホウオウは、白い輝きの中に包まれた。そして、ワタルジムから飛び立っていった。

 

ファングは、まるで自分のことのように「んんっ、Excellent六球でダメか……今回は嫌われましたね」と悔しがった。

 

しかし、その声は聡に届いていなかった。スマホ画面を見つめたまま、動けずにいた。

 

「……ドラゴンさん?」

「あっ、すいません。ははっ、ダメでしたね……」

 

聡の愛想笑いに、ファングは少し心配気味だったが、車を動かす準備のためにその場を離れていった。入れ替わりに、ヴィーナスがやってきた。

 

「ごめん、私、これからパートだから」

「あ、いえ。気にしないでください、今日はありがとうございました」

 

頭を下げる聡に、ヴィーナスは「頑張ってね」と声をかけてから車で去っていった。

 

その姿が見えなくなると、聡はファングの車の後部座席に乗った。夫妻は口々に「次はゲットできる」と励ましてくれた。彼らの愛犬も、元気に吠えている。

 

だが、聡は嫌な感覚に支配されていた。これは、三回連続でホウオウと対面した人間にしか分からないことだった。

 

父のスマホの時だけ、ホウオウの反応に冷たさを感じた。まったく、入る気がしなかった。まるで、意志を持って拒まれているようだった。

 

そして、その感覚が嘘ではないことが、石英町のジムに到着したときにハッキリした。

 

「嘘だろ……」

 

そこにホウオウはいなかった。代わりにタマゴから生まれたのは、エンテイだった。

 

気づかぬうちに、聡は父のスマホを握りしめていた。ホウオウは、父を虹の勇者として選ぶ気がないようだ……。

 

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33・マーシャドー

駅を利用する人々は、朝の十時からスマホを片手に集まっている聡たちを、おかしな連中だと思って見ていた。だが、今の『絆』メンバーにそんなことを気にする余裕はなかった。

 

コロッ……パンッ!

 

「そんな、十連続Excellentだったのに……」

 

三度目のホウオウも、聡の前から姿を消した。足に力が入らなくなり、ガクッと膝を折った。

 

「ドラゴンさん、まだ北口が残ってるから……くっ、またエンテイかよ!」

 

ファングが期待していた駅北口のジムも、どうやらエンテイだったようだ。

 

「エンテイ多すぎだろっ!二割しかホウオウいないじゃないかよ!」

「二割……」

 

一瞬、手術の成功確率が頭を過った。今のこの状況でゲットできる確率こそ、父の運命と同じに思えてきた。

 

「父さん……ごめん……」

 

泣きそうな聡の声を聞いたファングは、その肩を激しく揺すった。

 

「ドラゴンさんが諦めてどうするんですかっ!お父さんが諦めない限り、ドラゴンさんも一緒に戦うのが筋でしょう!たかが虹色の鳥、西エリア最強のドラゴンアッシュならどうってことないでしょうがっ!!」

「ファングさん……」

 

その言葉で目が覚めた。本当に辛いのは父だ。ここで諦めるわけにはいかない。

 

「すいません。こんなんじゃ、捕まるのも捕まらなくなりますよね。ホウオウに教えてやりますよ、地域限定を除くジョウト地方の図鑑コンプリートを一ヵ月で達成したドラゴンアッシュの実力を」

「ははっ、その意気です」

 

そんな二人の間に、大統領がすまなそうな顔で近づいてきた。

 

「ドラゴンさん、ごめん。オレ、店の準備だから……」

「いいんです、ここまでありがとうございました。会長も、確かもう時間ですよね?」

 

聡の言葉に、会長は「まだ三十分だけなら……」と言ってくれたが、それはキッパリと断った。町内の会合なら尚更だ。

 

大統領と会長の車が見えなくなるまで、聡は手を振り続けた。

 

その後、ファングと一緒に今後の方針を話し合った。残念ながら、ロビンソンの車はエンジントラブルで動かなくなり、近くのガソリンスタンドで見てもらっているとLINEで連絡があった。動けるのは、聡とファング夫妻だけになってしまった。

 

聡は、全体のLINEグループや『青龍』から貰った情報をもとに、何が最善かを考えた。

 

現在、双葉市に出ている5レベルは全部で十二。その中でエンテイが六つ、ホウオウが今やった駅南口の一つ、残りがカウント待ちだ。カウントの並びからいって、中央エリアから西エリアに戻るルートで移動するのがベストのようだ。ただ、それでも接触できる5レベルは三つだった。

 

「とりあえず、この五玉が割れるまでバンギラスレイドをやりましょう。金ズリがヤバいんで」

 

聡の指示にファングは頷くと、すぐに車を走らせた。その間、聡はLINEに最新情報がないか目を光らせた。目新しい情報はなかったが、そこには常に優しい言葉で溢れていた。

 

『絆』のメンバーたちは『時間が合う人は、ホウオウが出たら向かって欲しい』という趣旨の内容を送り続けていた。それをしつこいと思って注意する人もいたが、立ち上げ人である会長がなだめていた。

 

「みんな……」

 

この気持ちに答えなくてはならない。たとえそれが、二割の確率だとしても……。

 

5レベルのタマゴが生まれるまで、聡は他のボスポケモンを倒し続けた。いつしか、父親のアカウントはレベルアップして22になっていた。

 

ようやく、時間となるジムに辿りつくと、平日にも関わらず四人の人が集まっていた。聡はお礼を述べながら、スマホを用意する。

 

『頼む……ホウオウよ、来てくれ』

 

タマゴが割れると、まずは安堵した。虹の勇者を選ぶべく、ホウオウは姿を現してくれた。

 

その場にいたポケモントレーナーたちは、大量の『ほしのすな』をつぎ込んで育てたバンギラスやゴローニャで『ストーンエッジ』を決めていく。岩に押しつぶされたホウオウは、その力を弱めて小さくなった。

 

「今度こそっ!」

 

聡には、公園内に羽ばたくホウオウの姿が見えていた。手にあったスマホは、知らぬ間にプレミアボールになっていた。

 

ホウオウが放つ熱気に顔をしかめながらボールを握りしめると、その艶やかな体に目掛けて投げつけた。

 

しかし、ホウオウは翼で弾き飛ばした。砂場にボールがめり込む。

 

聡はベルトに付けた新しいボールを外すと、今度は狙いを定めて投げつけた。ボールの中に虹色の輝きが吸い込まれていく。

 

落ちたボールは、滑り台を転がって下のくぼみに落ちたが、揺れる前にホウオウがボールから飛び出してしまった。聡は再びボールに手をかけたが、ホウオウは『せいなるほのお』を放ち、公園を焼き尽くした。

 

聡が熱さにもがき苦しんでいると、ホウオウは見かねたように飛び去っていく。炎が消えたときには、その姿はどこにもなかった。

 

投げ損なって地面に転がった白いボールは、黒い影の前で止まった。その影の手には、虹色の羽根が握られていた。

 

「マーシャドー、オレにその羽根をくれ。どうしても渡したい人がいるんだ」

 

しかし、マーシャドーの手にあった虹色の羽根は、みるみる光を失っていく。資格がなくなった相手に興をそがれたのか、マーシャドーは影の中へと消えていった。

 

「待ってくれ、マーシャドー!」

 

光を失った虹色の羽根を掴もうと聡が手を伸ばしたとき、肩に重みを感じた。途端、現実に引き戻された。振り返ると、ファングが心配そうに見つめている。集まってくれた人々は、すでに解散していた。

 

「残念でしたね、Excellentは出てるのに」

「そう……ですね」

「……ドラゴンさん、次は石英町のジムに十時四十五分。最後が『渡るアヒルのレリーフ』で十一時二十分です。ただ……」

「分かってます。オレのことは気にせず、東京のお孫さんにホウオウをゲットしてあげてください」

 

募集の参加人数もだんだん少なくなっている。おそらく、次が事実上のラストとなるだろう。

 

聡は、指の震えを必死でこらえた。次こそは大丈夫……そう言い聞かせて……。

 

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