この内容は、『めざせジムリーダー』の第5章~1~です。

 

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ポケモンGO体験談『めざせジムリーダー』もくじ

 

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【第5章】ポケモンやってる人に悪い奴はいない~1~

28・オーキド博士

父は双葉市立中央病院に運ばれていた。ドラマでよく見る病室のベッドで横たわり、酸素マスクを着けていた。

 

こうなった原因は、これまたよく聞くガンだった。その病状の危険性は、ドラマでしっかりと把握している。

 

問題なのは、ここがドラマの仮想世界ではなく、現実世界ということだった。

 

ガンの状態を母に説明されたが、聡はまったく耳に入ってこなかった。

 

「ガンなら、病院でおとなしくしてろよ。何、散歩気分で買い物に行ってんだよ」

 

聡はボソッといった。意識がない父は、何も答えてはくれなかった。代わりに、隣にいた母が聡の肩を抱く。

 

「お父さん、聡ちゃんが心配するから普通にしてたいって聞かなくて。今は、新しい仕事で頑張らないといけないときだからって」

「バカじゃないの……そんなこと言える病状じゃないだろ」

 

ふと、レイドバトルのために外へ出ようとしたとき、玄関先で父に呼び止められたことを思い出した。

 

『いつまでも家と親があると思うな。最後は、お前ひとりで生きていかなきゃならないんだ。ゲームの世界とは違うんだ』

 

父は、どんな気持ちで話していたのだろう。それを聡は、いつもの戯言だと思って顔すら見ていなかった。あの時、ちゃんと向き合っていれば、もう少し早く気づけたかもしれない。

 

「大丈夫よ。お父さん、手術をすれば元気になるから」

「でも、簡単じゃないんだろ?」

「そうね、先生には20%って言われちゃった」

「……」

「でもね、お父さん『なら、大丈夫だ』って言うのよ」

「なんの根拠があんだよ……」

「聡ちゃんの好きなポケモンなら、それは問題ない確率みたいだから」

「……え?」

「ストーンエッジの命中率は信用ならないって。なんのことか分からなかったけど、聡ちゃんなら分かるんでしょ?」

 

意味は理解できる。『いわ』タイプの『ストーンエッジ』は強力な技だが、命中率が80%という難点がある。80%は確率でいうと高いほうなのだが、実際に使ってみると5割の確率で外してしまうのだ。

 

ただ、それはポケモンをやっている人間にしか分かり得ないことだ。

 

「なんで父さんがそんなこと知ってるの?」

「だって、聡ちゃんが好きなものだから。お父さんは心配性だから、色々知りたくなっちゃうのよ。中学でネットを使うようになった時も、変な人たちに勧誘されないか心配だったのよ。でも、そこまで気になっちゃうと、もうストーカーの考えよね」

 

ゲームをバカにしていた父が、そんなことをしているとは夢にも思わなかった。おそらく、ポケモンの知識はネットで拾ったものばかりなのだろう。だが、聡と同じく二十年以上の月日を経ているなら、一般の人よりポケモンに詳しくなっていても不思議ではなかった。

 

「こっそり、ポケモンGOもプレイしてたみたいよ。もしかしたら、散歩ってこれだったのかも」

 

母はテーブルにあった父のスマホを手に取ると、待ち受け画面を見せてくれた。ポケモンGOの隣に、コマスターやポケとるまである。

 

だが、もっと驚くべきアイコンが表示されていた。それは、聡がよく利用しているポケモン掲示板だった。書き込んでいるハンドルネームを見たとき、聡は目頭が熱くなった。

 

母は聡の背中をさすったあと、病室から出ていった。聡は久しぶりに父と二人きりになった。

 

「……どっちが本心なんだよ。オレにゲームばっかやるなって言っといて、こんな……『ポケモンやってる人に悪い奴はない』とか……ふざけんなよ」

 

聡の脳裏には、父と一緒にゲームショップに行った思い出が甦っていた。喜ぶ息子の姿を見て、その口元を緩ませていた父の顔が……。

 

「オレに最初のパートナーポケモンを……ヒトカゲをくれたのは、オーキド博士じゃなくて……あんたじゃないか……父さんっ」

 

何も語ってはくれない父に、聡は涙をこぼした。

 

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29・サトシ、10歳を卒業する

聡は、石英町にある公園のベンチに座っていた。時期なのか、中央にある噴水から水が出ることはなかった。

 

周りの木々から一枚、また一枚と枯れ葉が地面に落ちていく。そんな様子をただ眺めていた。

 

「寒く……ないの?」

 

聡は力なく顔を上げると、相変わらずフェローチェのような、すらっとした脚のイーグルアイが心配そうに立っていた。

 

「ああ、そういえば寒いですね……もう秋ですか」

「十一月の中旬は、もう冬じゃないかな」

「ああ、そうですね……」

「…………」

 

イーグルアイは、聡の隣に腰かけた。しばらくの間、黒いロングブーツを履いた足を組んだり、組み替えたりしていたが、「お父さんの手術はいつ?」と尋ねてきた。

 

「二週間後です」

「二週間後ってことは、十一月二十八日か。ホウオウがやってくる日だね」

「ああ、そうでしたっけ?」

「……へー。ドラゴンくんがポケモンのことを把握していないなんて珍しいなー」

「ひょっとして、励まそうとしてくれてます?」

「……ごめん、今のはちょっと不謹慎だった」

 

父のことは、『絆』のメンバーには話していた。エンテイレイド直後に母から電話があったので、そのやり取りを見ていたみんなが心配するのは当然だった。だから、後で隠すことなく報告したのだ。

 

「ありがとうございます、本当に嬉しいです。まさか、バチバチやり合ってたイーグルアイさんに励ましてもらえるなんて、昔なら想像もしていませんでしたよ」

「あれ、そうだった?年齢のせいか、最近、物忘れが多くて」

「『ライバル』みたいな台詞……」

「え?」

「ああ、すいません。なんでもないです。……はあ。オレ、どうしたらいいか分からなくて」

「……ドラゴンくんができることは、一つしかないよ」

 

イーグルアイは聡と向き合い、真剣な眼差しで言った。

 

「変わらぬ生活をすればいい。お父さんが帰ってきた時、ドラゴンくんが体を壊してたら元も子もない。ご飯を食べて、仕事をする。そして、手術の日にだけ祈ればいい」

「そうですよね……でも、変わらないといけないんです。じゃないと、父さんを安心させられないから……」

「どういうこと?」

 

聡は、包み隠さず仕事の現状を説明した。イーグルアイはバカにすることなく、その話に耳を傾けてくれた。

 

「なるほど……なら、落ち込んでる暇はないね。結果を出すことに全身全霊で臨む必要がある」

「ですね」

「ただ、今のままだと難しいかもしれない。ユーチューブは再生回数で収益が発生するから初報酬までの期間が短いけど、まとまった収益を稼ぐには難しい媒体でもある。結果を出すには、かなりの時間をかける必要があるのよ」

「えっ、お詳しいんですね」

「言ってなかったけど、私もネットビジネスをしてるの。私の場合は、ホームページを利用したものだけど」

 

聡は驚きを隠しきれなかった。地方の町でネットビジネスの理解者に出会えるのは、まさに奇跡だった。

 

「もし、ドラゴンくんがネットビジネスを長く続ける気があるのなら、ホームページを使って稼ぐノウハウを覚えたほうがいいと思う。ユーチューブで集めた今のアクセス数を利用することもできるから、無駄にはならないと思う。私でよければ、やり方を教えてあげるよ」

「本当ですかっ、ありがとうございます!」

 

聡は立ち上がって頭を下げた。

 

アニメのサトシのように、いつまでも子供のままではいられない。このチャンスを無駄にしないよう、全力で取り組まなければならない。

 

でも、少しだけ希望が持ててホッとした。これもまた、ポケモンGOがもたらしてくれた出会いなのだ。

 

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